大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 昭和29年(ヨ)332号 判決

申請人 金子勇 外二名

被申請人 旭硝子株式会社

主文

申請人等の各申請を却下する。

申請費用は申請人等の負担とする。

事実

申請代理人は

一、被申請人が昭和二十九年四月二十二日附で申請人等に対して為した解雇の意思表示の効力をいづれも停止する。

二、申請費用は被申請人の負担とする。

旨の裁判を求め、

その申請の理由として、

(一)  被申請人は東京都中央区銀座四丁目一番地に本店を置き板硝子及び曹達等の製造等を営む株式会社であり、申請人等はいづれも被申請会社(以下単に会社と云う)の従業員であつて、八幡市大字枝光に在る同会社牧山工場に勤務し、且つ同工場勤務の従業員を以て組織されている旭硝子株式会社牧山工場労働組合(以下単に組合又は牧労と言う)の組合員であつて、申請人金子勇はその執行委員長、同宮川清城は副執行委員長、同池田明は代議員の職にあるものである。

(二)  組合は昭和二十八年春頃から工場内各職場に於ける配置定員の適正化等の問題をめぐり労働条件改善の為会社と団体交渉を重ねたが、主張が受容れられなかつたところから之を貫徹する為同年九月十日正午より同盟罷業を実施した結果、同年十月二十五日に至り意見の一致を見たので茲に労働争議は終了したのであるが、会社は昭和二十九年四月二十二日に及び、右争議期間中、争議行為に附随して発生した紛議に藉口し、同日附書面を以て申請人等に対し夫々懲戒解雇に処する旨の意思表示をなし来つた。

(三)  会社が懲戒解雇の事由として挙げたところは次の通りである。

(1)  申請人金子勇、同宮川清城に対し、

(イ) 昭和二十八年九月十日より同年十月二十五日に亘る労働争議期間中組合は工場各門及び鉄道引込線並に海上にピケ隊を配置し、ピケに従事する組合員等をしてピケの正当な限界を逸脱して会社業務を妨害し、刑罰に触れる各種不法行為を行わしめたのであるが、申請人金子勇は闘争委員長として、申請人宮川清城は副闘争委員長兼統制部長として夫々かかる不法行為を指令し、実施し、或いはこれを容認し若くは防止する努力を行わなかつた。

これらの行為は旭硝子株式会社牧山工場社員就業規則(以下就業規則と言う)第百七十七条第二号、第二十七号、第四十三号、第五十七号、第五十八号、第五十九号の各号及び第百六十九条に該当する。

(ロ) 昭和二十八年十月九日牧山工場労働組合がデモを行つた際デモ隊の先頭に立ち保安係守衛等の制止を排して率先して工場内に侵入すると共に多数組合員及び応援の外部団体員等を侵入せしめ、これがため正門扉破壊を誘発せしめると共に退去せしめんとする保安係守衛に対して自ら傷害を与え工場内の秩序を紊乱した。

これらの行為は就業規則第百七十七条第十二号、第三十二号、第三十三号、第三十七号、第四十三号、第四十七号、第五十八号の各号及び第百六十九条に該当する。

(2)  申請人宮川清城に対しては右(1)の(イ)(ロ)の外

昭和二十八年十月十二日八幡市枝光長尾町三丁目道路上に於て組合員多数を指揮し通行中の会社宣伝カーを停止せしめてこれを包囲し、警官隊の再三の警告にも拘らず青年行動隊員を右車の前後に蓆を敷いて坐り込ませ、多衆の威力を以て会社非組合員等に対しその業務を妨害した。

これらの行為は就業規則第百七十七条第二十七号、第五十八号の各号及び第百六十九条に該当する。

(3)  申請人池田明に対し、

(イ) 昭和二十八年十月十六日戸畑市沖台通牧山工場従業員組合本部に故なく侵入し、同部員の制止を排して保管中の荷物の荷札をはぎとり持ち去つた。

これらの行為は就業規則第百七十七条第五十八号に該当し

(ロ) 昭和二十八年十月十七日深更組合員多数が戸畑市沖台通牧山工場従業員組合本部に押しかけ、更に戸畑市金原町並に向町の中野社宅に侵入し器物を毀棄し、且つ社員及びその家族を畏怖せしめた事件に於てこれが指揮誘導に助勢し、且つ看板を奪取する等の暴行を働いた。

これらの行為は就業規則第百七十七条第四十六号、第四十九号、第五十八号に該当する。

よつて就業規則第百七十八条に基き、申請人等を夫々懲戒解雇に処するというのである。

(四)  しかしながら会社が解雇事由として挙げた右各事実の真相並にそれが発生するに至つた経過は次の通りである。

(イ)  前述の通り組合は昭和二十八年九月十日より同年十月二十五日迄労働争議を行い、同盟罷業を実施したのであるが、同年九月十八日頃より職制にある組合員を中心とする一部組合員等は組合の争議行為の遂行を阻害し、その団結の切崩しを企図した行動を執拗に繰返し、組合の再三の中止勧告にも拘らず反省するところがなかつたので已むなく組合は同年十月五日附でこれら組合員二十二名を除名し、且つ労働協約第二条(ユニオンショップ条項)に基いて会社に対し、その解雇を求めたが、会社は之を無視したのみならず却つてこれら除名者達を援助して牧労同志会を結成させ遂には之を旭硝子株式会社牧山工場従業員組合なる第二組合に迄発展せしめ組合の運営に支配介入し、争議の効果減殺を図つた。

しかのみならず、労働協約第百十条により、第百九条に基いて組合会社間に締結された保全協定が誠実に履行される限り会社は罷業の実体を阻害する目的で他の労働者を就業させない事が定まつて居り、組合は右争議期間中之が履行をしていたにも拘らず、会社は右協約に違反して同年十月七日前述の除名者を含む組合員約百二十名、会社出入の請負業者の作業員その他の労働者合計約三百名を海岸より工場内に入場就業させると共に、陸上に於ても請負業者をして工場各門に配してある組合のピケットラインを突破入場せしめるなど、罷業の実体を阻害するの挙に出た。又翌十月八日には請負業者による組合本部への所謂「殴り込み」が実施され、組合員から負傷者を出すに至つたので組合は同月十日福岡地方裁判所小倉支部に仮処分申請をなし、会社は昭和二十八年九月十日現在に於る会社従業員以外の者を組合員が従来就業していた作業に就かせてはならない旨の仮処分命令を得た。

(ロ)  かかる情勢の下に於て十月九日組合大会が開催されたのであるが、その終了後なる同日午前十一時半頃応援の外部団体の者を交えた参会者約一千名が申請人金子、同宮川を先頭に三列となつてスクラムを組み、工場前道路上で蛇行々進の方法を以て示威行進をなしたところ、その隊列の中央部附近が工場正門前にさしかかつた際偶々同所道路上に人が溢れて混乱を来し、之が整理に当つていた統制部員申請外矢原和彦は正門扉前の長椅子の上に立つたまま示威行進隊員(以下デモ隊員と言う)により強い力で正門扉に押しつけられて進退窮まり、身の危険を感ずると共に門扉の破損する事を惧れ、之を防ぐ為咄嗟に門内に飛込んで内側から閂をはずし之を開いたところ、デモ隊の中央部がはずみで門内に入り込んだが、之を知つた申請人金子等は、いちはやく現場に馳けつけ全力を尽して之を制止誘導して工場外に退去させたのにすぎず、之を目して工場内の秩序を紊乱したものとは言うを得ざるところであり、いわんや右申請人等が卒先し、会社の保安係守衛等の制止を排して工場内に侵入すると共に外部団体の者を交えたデモ隊員をも侵入せしめ、守衛に暴行傷害を加え、正門扉の破損を誘発したという事は到底あり得ざるところである。尚右の際正門扉が破損したか否かは申請人等の知らないところである。

(ハ)  次に会社によつて罷業破りが敢行されて間もない十月十二日予て社宅等を廻り、罷業破りに参加し工場内で就業している組合員等に渡す荷物を集める等の行為に出ている会社の宣伝カーが八幡市枝光長尾町にある長尾社宅にも廻つて来たが、その車内に争議から脱落して工場内で就業中の者に渡す品物と覚しきものがあるのを発見した組合員三名がその乗員に対して右品物を工場内に運搬せぬよう説得を行つているところえ旭硝子株式会社堂山労働組合の組合員三十名位も馳けつけて之に加わり、説得が尚も続けられたのであるが、申請人宮川は此の報を受けて現場に赴、乗員に対して、工場内で就業中の者に品物を届ける事は徒らに紛争を激化するのみならず、それは組合の争議権、団結権の侵害にもなるから差控えられ度い旨懇願した後直に組合事務所に引返したにとどまり、多数組合員を指揮して会社宣伝カーを停止せしめた上之を包囲し、尚青年行動隊員を車の前後に坐り込ませ、多衆の威力を以て乗務員たる会社非組合員等の業務を妨害した様な事はない。尤も申請人宮川が帰つた後現場に残つた組合員が道路上に坐つたところ警官隊が之を検束した事実はあるが、右は申請人宮川とは何ら関係のないところであり又この間を通じて暴行、脅迫監禁等の行為は一切なかつた。

(ニ)  次に十月十六日申請人池田明は争議から脱落し罷業破りに参加した旭硝子株式会社牧山従業員組合(以上牧従と言う)の組合員が、牧山労働組合員の引抜を策している旨を聞知したので牧従事務所に赴いたところ、同所に居合せた知人に招じ入れられたので同所内に立入つて同人と話合つたものであつて故なく侵入した事実はない。尤も同所で荷物から荷札を外した事はあるが、之はその荷物が罷業破りに参加し工場内で就業中の者に宛てたものであるのを見た途端会社の組合に対する露骨な支配介入行為と組合員でありながら之に呼応した脱落者に対する嫌悪憤懣の念を押え切れず此の挙に出たのであつて極めて些細な咎めるに足らない行動と言うべきである。尚その荷札は後刻返却されており荷物の処理には支障を与えていない。

(ホ)  次で十月十七日夜、八幡市枝光新町所在の天理教々会堂に合宿中の牧山労働組合曹達支部所属組合員は、十月七日の罷業破り、翌八日の組合事務所殴込みなど相次ぐ会社側の争議妨害行為に憤慨し、牧従事務所附近で示威行進をしようと申出たので、支部長であつた申請外井上敏之が之を指揮し、牧従事務所のある戸畑市沖台通自見産業株式会社前に於て示威行進をなし、更に戸畑市向町所在の中野社宅、同市金原町六丁目所在の社宅にも赴き同様示威行進をなし申請人池田明も之に参加していたが同人は之が指揮誘導に助勢した事はなく、又右示威行進に当つては器物毀棄、住居侵入、脅迫等の行為はなされて居ない。尤も申請人池田が牧従事務所に於てその看板を取外した事はあるが、これは荷札を外した時と同様牧従に対する嫌悪と会社の組合に対する支配介入に対する憤慨の念のしからしめたもので、とり立てて咎めだてするに足らない些細な行為と言うべきであり、右看板は即時其の場に置いて帰つている。

(ヘ)  最後に前述の争議期間中、申請人金子は闘争委員長、同宮川は副闘争委員長兼統制部長の地位にあつた事と組合が工場の周囲にピケットラインを設置した事は事実に相違ないが、ピケットラインを設けてピケッティングを行う事は労働組合に許された正当な争議手段であり、且つその実施に於ても正当性の限界を超えた行為は何等なしていないから之が実施の最高責任者たる右申請人等に於て会社から責任を追及せられるいわれはない。むしろ保全協定に違反し、それに禁じられている行為をなし、又労働協約に違反して罷業破りを入場就業させた会社の行為をこそ責めらるべきである。

(五)  会社が申請人等に対する懲戒解雇事由として掲げるところは実は以上の如きものなのであつて、そのどれ一つとして就業規則第百七十七条の各号に該当すべきものはない。仮に形式上之に該当するものがあつたとしてもそれは会社の保全協定違反、労働協約違反、不当労働行為、罷業破りなどの一連の不当な行為に対抗し、組合の団結権、争議権防衛の為なされた正当な争議行為であるから右就業規則適用の対象たり得ないものである。従つて会社は就業規則の解釈適用を誤り不当に懲戒権を行便したものと言うべく、そのなした懲戒解雇処分は無効である。又仮に申請人等に就業規則違反の行為があつたとしてもそれが前述の如き会社の行為に対抗し争議権、団結権を擁護する為なされた点に鑑み規則に該当するの故を以て直に申請人等を最重罰たる懲戒解雇処分に付したのは、その適用に当つて裁量を誤り解雇権を濫用したものと言うべきであり、且つ申請人等日頃の正当活溌な組合活動を厭い、該処分によりその工場内えの立入を封じ以て職場内に於る組合活動を不可能ならしめ、労働組合を弾圧する意図のもと社員就業規則違反行為に藉口してなされた差別待遇である事は明瞭であるから、その処分は無効である。

(六)  そこで申請人等はいづれも会社に対し、雇傭関係存在確認を求める訴訟の提起を準備中であるが、本案訴訟の確定を待つていては、その間賃金の支払を得られない為、生活は著しく困窮し又申請人金子、同宮川は執行委員長並に副執行委員長であつて組合活動の中心となるべき幹部であり、又申請人池田は組合動力支部に於る熱心な組合活動家であるが、解雇により以後工場内に立入ることが出来ない為、職場等に於る組合活動の途を封ぜられ、組合に対するその任務の遂行に重大な支障を来し、よつて組合の蒙る不利益も多大であつて、いづれも時宜を失すれば回復し難い損害の発生する虞があり、之を防ぐ為に申請の趣旨の如き仮処分を早急に得る必要がある。

仍つて本申請に及んだ旨陳述し

被申請人の申請人等には仮処分の必要性がないとの主張事実について

申請人金子勇、同宮川清城、同池田明が牧労の規約中の補償規程に基く、補償を受けているとの事実は否認する。

昭和三十年五月以降申請人金子が八幡市々会議員として同市から月額平均四万円を、又申請人宮川が戸畑市々会議員として同市から月額平均三万一千円を各支給されている事は認める。

申請人金子は解雇処分を受ける前から昭和三十年五月三十一日迄の間、組合専従役員をしていたので、この間は専従者給与として月額金二万九千六十円の支給を受けていたのであるが、同年六月以降は、毎月金二万八千八十円宛(税込)と他に盆暮に慰労金相当額の金員を組合から貸与されているのであり、申請人宮川も解雇処分を受けてより昭和三十年三月迄は毎月平均金二万八千五百円宛(税込)、同年四月以降は毎月平均二万九千七百六十円宛(税込)と他に盆暮に慰労金相当額の金員を組合から貸与されているのであり、

申請人池田も同様解雇処分を受けてより昭和三十年三月迄は毎月金一万八千七百円宛(税込)、同年四月以降は毎月金一万九千九百六十円宛(税込)と他に盆暮に慰労金相当額の金員を組合から貸与されているのであつていづれも補償金として支給されているのではない。

尚申請人金子、同宮川はいづれも市議会議員として受ける給与のうちから毎月金一万円宛組合の闘争資金に醵出している。

旨陳述した。(疎明省略)

被申請代理人は

主文と同旨の裁判を求め、

答弁として、

(一)  申請理由第一項の事実中

申請人等が現に被申請会社の従業員である事は否認するが、その余の事実は認める。

尚旭硝子株式会社牧山工場労働組合は現在では同工場従業員の半数に達しない一部の者を以て組織せられている。

(二)  同第二項の事実中

牧労が昭和二十八年九月十日正午より同盟罷業を実施し、該労働争議は同年十月二十五日を以て終了した事、会社が昭和二十九年四月二十二日附を以て申請人等に対し、夫々懲戒解雇に処する旨の意思表示をした事は認めるがその余の事実は否認する。

(三)  同第三項の事実は、解雇理由の表現方法に若干の相違はあるが全部認める。

(四)  同第四項の事実は著しく真実を枉げたものであるから、以下その真相を述べ、之に反する申請人等の主張事実を否認する。

(1)  元来会社の従業員を以て組織する労働組合としては、尼崎、鶴見、伊保、淀川の各工場、本社、大阪支店及び研究所に各一つ宛の単位組合があり、牧山工場にも前述の牧労があつてこれらが連合して旭硝子労働組合連合会(以下単に連合会と言う)を組織していたのであるが、昭和二十八年四月の連合会大会に於て牧労提案の運動方針案が否決されたのを契機に同年六月十六日牧労は右連合会を脱退した。ところが労働協約は、会社と連合会を当事者として締結されていたので右脱退によつて牧労に対する関係では失効した疑が生じたから会社は牧労に対し、右の疑義を避ける為改めて従来のそれと略同一内容の協約の締結を提案したところ、牧労は従来のそれは当然有効であるとの見解を固持して譲らず、数次の団体交渉を行つたが意見の一致を見るに至らなかつた。

(2)  そこで「牧労は、同年八月十二日組合大会を開いて闘争体制の確立、闘争委員会の設置、大会の権限の大部分の闘争委員会委譲を議決し」且つ「従来の協約の有効確認」の項目の外にこれ迄何等紛争の対象となつていなかつた「定員制の適正化」の項目を突然要求事項中に加え、その要求貫徹の為、同盟罷業を実施する事の可否について組合員の一般投票を求める事を決定し、「同月十四日より十七日迄の間の一般投票」により同盟罷業の実施を決定した。

(3)  かくして再び団体交渉が継続された結果、労働協約に関する紛議について双方の意見が一致し、同年八月二十七日、会社と牧労間に新な協約が成立したのであるが、その間に牧労は前述の一般投票実施当時には何等具体的要求内容も決つて居らず、いわんやそれについて会社と一度も交渉した事のなかつた「定員制の適正化」に関する要求の具体案なるものを急遽決定し、之に関する団体交渉を求めて来た。そこで会社は之に応じ硝子部門の定員については同月二十二日、翌九月四日いづれも牧山工場に於て、九月八日には本社に於て、又曹達部門については右九月四日夫々団体交渉を行い後日回答する事を約した。

(4)  抑々定員制と言うのは、昭和二十七年十二月連合会と労働協約を締結した際、賃金引上げの附帯条件として当事者間に交換した「労働時間縮減に関する確認書」に基いて、昭和二十八年四月より硝子、曹達の各部門の職場に於て実施された新編成作業人員を指すもので、右の確認書によれば「労働時間縮減の為会社が必要な措置を行う場合連合会及び組合は之に対し積極的な協力を惜まない」ことが確約されて居り、且つその実施に先立ち、会社と連合会との話合いによつて若干期間実施して後不適当な点があれば組合の申出により再検討を加える事並に硝子部門に関しては、牧山、尼崎、鶴見の三工場の共通の問題として処理すべきことが約束されていたのであつて、前述の通り八月二十七日牧労と会社の間に新労働協約が成立した際にも右の確認書の内容がそのまま引続き双方を拘束するものである旨の再確認がなされたのである。従つて牧労は予め会社に対し不適当な点を申出て共に検討するという手続をとるべきであつたにも拘らず、いきなり要求案を掲げてその全面的承認を迫り、且つ、三工場共通問題についても牧山工場独自の立場で適正化される事を要するとの主張を固執した。一方会社はその交渉に於て要求中認むべきものは認め、調査を要するものについては実情調査を提案するなど誠意を以て解決に努めた結果、主張の喰い違いは硝子部門について十五名の増員を認めるか否かの一点を残すのみとなつたにも拘らず牧労は前述の態度を改めず遂に曹達部門についての会社の回答もまたずに交渉打切を強行し、「九月九日会社に対し、九月十日正午より四十八時間の同盟罷業を実施する旨通告実施し、次で十一日には引続き十二日から四十八時間の、又十三日には十四日以降無期限の同盟罷業を行う旨通告実施した」のである。

(5)  そこで会社は牧労に対し争議実施に先立ち、労働協約に基いて、保全協定を含む争議協定の締結方を申入れたのであるが牧労は故なく之に応じないのみか、不法にも原燃材料、製品等の入出荷の全面的停止を会社に強要し、罷業実施後はピケッティングに藉口して工場封鎖を強行した。

(6)  かかる状況下に於ても「九月十二日、十三日、十六乃至十八日、二十五日、二十六日」と団体交渉が重ねられたが牧労側の非妥協的態度の為解決に至らなかつた。

一方九月十八日頃から前述のような経緯をもつて殆んど理由のない同罷業を強行する牧労執行部に対して批判的態度を採る組合員が漸増し、「十月一日には罷業即時中止のビラを公然工場正門に貼出した組合員十八名が除名された」のであるが、之が却つて争議反対の意見を抱懷する組合員の結束を急激に固めさせる結果を招来し、「十月六日には数百名の組合員が牧労を離脱」して牧山工場有志会なる独立の団体を結成し、会社に就業を申入れたので、会社も慎重に検討した末、これを受容れることに決し、之との間に就業協定を結び「十月七日より六百八十七名という多数の従業員の就業」を見たのである。

「翌八日には、右有志会を母胎として牧山工場従業員組合が結成され」たが、以後牧労を脱退して之に走る者は増加の一途を辿つた。(因に現在では牧従所属員は約千七百五十名、牧労所属員は約千七十名である。)

尚十月十日組合の申請により福岡地方裁判所小倉支部より「会社は昭和二十八年九月十日現在に於ける会社従業員以外の者を組合員が従来就業していた作業に就かせてはならぬ」旨の仮処分命令が発せられたのであるが後述の理由により会社は該命令には違反していないものである。

(7)  ところが牧従員の就業以後牧労は工場各門等に監視班員を多数配置して工場封鎖を益々強化し、不法にも多数の威力を以て会社非組合員、社外第三者の工場立入に干渉し、会社専用鉄道引込線を占拠して日本国有鉄道の列車の運行を妨げると共に会社の業務をも阻害し、海上に於ても、工場岸壁沿いの狭い水路に監視船を繋留して両所を航行する他の船舶の往来の危険を生ぜしめたほか、「十月十二日会社の申請により福岡地方裁判所小倉支部から牧労並に申請人等を含む組合員に対し発せられた工場地域内立入禁止、原燃材料製品出入荷の妨害行為禁止等の仮処分命令」を無視し、女子職員の私物を検査し、病患婦女子の会社診療所に於る受診を妨げ、深夜会社非組合員の私宅に大挙押しかけ暴力を振るい、会社宣伝カーの乗務員を監禁するなど違法な争議手段を敢て用いた。

(8)  而して右の如き行為に対する会社の抗議に対し、牧労は会社が除名者の解雇をしなかつたのは労働協約違反であり、牧従が結成され就業した事を会社の組合に対する支配介入であるなどと反駁するが、除名者を解雇しなかつたのは、その除名処分が組合規約第六十七条所定の「除名者の所属支部の除名決議」を欠ぐ無効なものであり、又前述の如き組合の分裂若くは組合員の大量脱退という事態が発生した場合には労働協約第二条(ユニオンショップ条項)の適用はないと解すべきであり、尚同条は除名即解雇の原則を定めたものではなく、解雇の最終決定権は常に会社に専属する事を示したものと解すべきであるとの諸理由によるのであつて何等協約に違反するところはなく、次に牧従の結成については前述の如く、すべては理由に乏しい争議を強行した牧労執行部に対し、組合員の中から盛り上つた批判の然らしめたところであつて、全く会社の関知しないところであり、又牧従を就業させたのは、労働協約第百九条に基く保全協定が牧労の拒否に遭い締結されていなかつたから、その存在を前提とする第百十条は適用の余地がなく、同条に所謂「他の労働者」とは会社従業員(社員、傭員、雇員、嘱託)以外の者を指称すると解すべきところ、牧従員は本来右に言う会社従業員であるから之に該当せず更に前述の如く組合分裂、組合員の大量脱退の場合には同条はその性質上適用されないものと解すべきであるとの諸理由に基くものであつて、罷業の実体を阻害する目的は全くなく、又阻害もしていないから、何等違法な点はない。

尚会社が請負業者をして罷業破りを行わせたと言う点について、請負業者の若干名が入場した事実はあつても、彼等を従来牧労員がなしていた作業に就業させた事はなく、請負契約に基く、彼等本来の業務に就いていたものであるから、申請人等が主張する仮処分命令の趣旨は会社によつてその発布の前後を問わず遵守されていたのである。

(五)  而して申請人等に対する解雇事由というのは前項に於て述べた幾多の違法行為のうちの特に許し難い重大なものをとりあげたのであつてその具体的内容は次の通りである。

(1)  十月九日の所謂工場正門侵入事件

昭和二十八年十月九日牧労は組合大会を開催した後午前十一時半頃闘争委員長であつた申請人金子及び副闘争委員長であつた申請人宮川を先頭に、その統制指導の下、組合員、外部団体からの来援者総数約千名を三列となし、蛇行々進の方法により工場正門道路上に於て示威行進を開始した。会社は之に対し、正門扉を閉じて閂をかけ、多数の保安係守衛等を配して示威行進隊の工場内立入を防止する措置を講じたにも拘らず、同日午前十一時五十分頃示威行進隊の先頭は一旦正門前を通過しながら突如反転して正門前に押し寄せ正門扉を支えていた守衛等に対し所携の旗竿等を振ろつて牽制し、その思わず後退する隙にこれ迄正門前の長椅子上で笛を吹き示威行進の統制指揮に当つていた青年行動隊長申請外矢原和彦が正門扉を飛越えて工場内に侵入し、守衛等の制止を排してすばやく閂を外すや、申請人金子、同宮川は自から先頭に立ち正門扉を押開いて工場構内に侵入し、外部団体からの来援者を含む示威行進隊員を誘導し、居合せた会社非組合員守衛等必死の阻止も多数の威力と暴力を以て排除しつつ怒濤の勢を以て構内保安本部の建物前附近迄到り、その間申請人金子、同宮川自身も又その侵入阻止に努めていた坂崎守衛に手拳をふるつてその胸部に治療約五日間を要した打撲傷を与えるなど多数共同して暴力行為を敢てし、因つて正門々扉をも損壊し、工場内の秩序を極度に紊乱した。

(2)  十月十二日の所謂宣伝カー包囲事件

昭和二十八年十月十二日午後四時十分頃、会社の傭入れた宣伝カー(運転手友納邦彦、放送係古森琴美、会社非組合員永沢慶治乗組)が宣伝放送の為、八幡市枝光長尾町所在長尾社宅を巡廻し、偶々牧従組合員家族から託された工場内の本人宛の荷物三個を預つて同市枝光千代町三丁目道路上に差かかると申請外矢原和彦が牧労青年行動隊員約三十名を指揮してかけつけ旗竿を横にして車の前方に立塞がり、停車のやむなきに至らせて包囲し、右永沢慶治に対し前述の荷物の引渡を執拗に要求し、之を拒まれるや続々集つて来る牧労員等と共に口々に「車を燃やしてしまえ。」「車をひつくり返せ。」などと怒号し、その乗組員に対して要求に応じなければ、その身辺に危害の加わるべき事を暗示して脅迫すると共に車の周囲を取囲んでその行動の自由を奪い、続いて現場に到着した申請人宮川も右矢原等と協議して蓆数枚を車の前面路上に敷かせ、二十数名の青年行動隊員を座り込ませ、警官隊により牧労員の一部が検束される迄の約二時間の長きに亘り、多数の威力を以て乗組員を脅迫し、荷物の引渡を強要しつつその間之を監禁し、且つ車の通行と宣伝作業の遂行を妨害した。

(3)  十月十六日の所謂牧従事務所に於る荷札剥取事件

昭和二十八年十月十六日午後四時頃申請人池田明は戸畑市沖台通所在牧従事務所の階下である自見産業株式会社事務所内に故なく侵入し、牧従が工場内で就業中の牧従員に届けるべくその家族より託され同所に於て保管中の荷物に附けてあつた荷札約十枚を剥取り持去つた為、荷物の宛先、差出人共に不明となり、その処理を不能ならしめた。

(4)  十月十七日の所謂社宅等デモ事件

昭和二十八年十月十七日午後十一時十分頃申請外井上敏之に指揮誘導された牧労員約百名が隊伍を組んで、前述の自見産業株式会社事務所前路上に於て示威行進をなし、右事務所二階の牧従事務所目がけて喚声をあげ多数の威力を示し、所携の旗竿で硝子窓を破壊するなどの暴力行為に出たのであるが申請人池田明もこの挙に参加し、自からも電柱を伝つて右事務所の屋根に登り、そこに掲げてあつた牧従の木製看板(長さ約二米、幅約四十糎)を取外してこれを踏みにじつた上何処えか投げすて、右に引続いて右井上に指揮された示威行進隊は同日午後十一時半頃戸畑市向町所在中野社宅に至り、喚声をあげて社宅構内に乱入し示威行進を行つたが、その際、勢に乗じて工場長宅の門燈を破壊し、門扉を押倒し、尚一部の者は故なく邸内に侵入し、又庶務課長宅外二軒の板塀、潜り戸を破壊し、且つ同社宅居住者に著しい恐怖の念を抱かせ更に続いて同市金原町六丁目の社宅に至り前同様構内に乱入し、越智副長宅、保険係長宅の門扉を破壊したほか、数軒の門扉、木戸、硝子戸、新聞受、牛乳瓶、標札等を損壊し、邸内目がけて投石し、同社宅居住者に恐怖の念を抱かせるなど多数の威力を示して、器物を毀棄し、居住者を脅迫し、故なく邸内に侵入するなどの暴力行為をなしたのであるが、申請人池田も又之に参加し、右の暴力行為に加担助勢した。

(5)  陸上に於る所謂違法ピケ事件

牧労は同盟罷業実施後、闘争委員会の決定を以て、闘争委員長の許容した者以外の工場内立入を阻止するとの方針を指令し、昭和二十八年九月十一日より工場各門に多数の監視班員を配置し、之が実施をなした結果

(ア) 同年九月十一日、担当業務遂行の為牧山工場を訪れた東京製綱株式会社小倉工場勤労課長桑原勳は工場正門より入場せんとして同所に居合せた牧労監視班員十数名から、組合本部の指令なりとして之を阻止され、右班員等並に同所に来会した申請人宮川にその違法なるを説いて入門せしむべき事を求めたが、牧労監視班員等に包囲され実力を以て阻まれたので遂にその目的を達し得ずして立去り、同年十月七日公務を帯び牧山工場を訪れた八幡警察署稲永部長平本刑事の両名も工場正門に於て居合せた牧労監視班員に阻止されて入場を果さず同月十三日東京より牧山工場に来訪した竹吉商店代表者細川肇も工場正門に於て牧労監視班員によつて入場を阻止され、翌十四日、公務を帯びて牧山工場を訪れた福岡県経済部水産課員高木岩蔵も工場正門に於て前同様にして入場を阻止された。

(イ) 同月十六日訴訟用務の為牧山工場を訪れた弁護士末松菊之助、同村田利雄は工場正門に於て前同様入場を阻止され、牧労本部と折衝の末漸く入場し得たが、その際用務の内容を述べるを余儀なくされた上、甚しく時間を空費させられその業務遂行に著しい妨害を蒙つた。

(ウ) 同月十日会社に新聞を配達する為正門を入ろうとした新聞配達人が前同様入場を阻止された上配達すべき新聞百数十部を牧労監視班員に取り上げられたほか、同月十一日、十二日、十三日にも同様入場を阻止されて配達をなし得ず、その業務を妨害された。

(エ) 同月十七日、牧山工場診療所で治療を受ける為、診療所通用門より入場せんとした牧従組合員の妻須藤華子は、前同様入場を阻止されたので、やむなく牧労本部に赴いて入門許可を乞うたところ、「裏切者の家族は入門させぬ事にした。」と言つて之を拒まれた上口々に「お前の主人を叩き殺してやり度い。」「口惜しければ主人を牧労に復帰させろ。」等の暴言を浴びせられるなど、多数の威力を以て脅かされて権利の行使を妨げられ、空しく引揚げるを余儀なくされたが、之の為、工場診療所もその業務に支障を来した。

このほか同月十六日にも、治療を受ける為診療所通用門より入場せんとした牧従組合員の妻山岡多津子、同原田純子も前同様入場を阻止され、牧労本部では暴言を浴びた末入門を拒否され、いづれも治療を受け得ず為に翌日よりいづれもその病状が悪化した。

(オ) 同年九月十四日請負業務上の用件で牧山工場を訪れ、堂山門より入場しようとした戸畑鉄工株式会社の山根正雄は、同所に居合せた牧労監視班員に之を阻止されたので牧労本部に赴いて入門の交渉をしたが、争議中は外来者の入門は拒否する方針である旨宣言されて入門許可を得る事が出来ず為にその業務の遂行を妨げられたほか、同年十月十二日にも前同様の目的で工場内に入場しようとして前同様拒否せられ、尚同日納品に関する用務等の為牧山工場を訪れ入場しようとした高谷鉄工所の山口二三、親和工業株式会社の入川勇、壱岐尾鉄工所の大田順一らも又前同様牧労本部に於て入門許可の付与を拒否せられ、いづれもその業務の遂行を妨げられ更に右同様請負業務上の用件で牧山工場を訪れた西谷電機合名会社の恵藤聰も同月十二日、十三日の両日に亘りいづれも牧労本部に於て入門許可の付与を拒否されその業務の遂行を妨げられた。

(カ) 同年十月八日会社との請負契約に基く請負業務遂行の為堂山門から工場内に入場しようとした上田建設工業株式会社ほか二十数社の従業員四百余名は、申請人宮川の指揮する牧労監視班員等百数十名により、組合本部の指令であるとして実力で入場を阻止せられてその業務の遂行を阻まれ、此の状態は争議終結迄続いた。

(キ) 同年十月九日社外栗善太郎所有のトラックが工場構内に於て返却用酸素空瓶を積込み、港町門から出場しようとして牧労監視班員等に阻止せられ争議終了迄出場出来ず、その業務の遂行を妨げられた。

(ク) 同年十月九日所定の腕章を附けた会社非組合員友沢潤次郎は外部の自動車に乗り工場正門より入場しようとしたところ、牧労監視班員により、組合としては同日の闘争委員会の決定により今後外部の自動車は一切入門させぬ方針であると称して阻止され、此の状態は争議終了迄続いたほか、翌十日にも会社労務課員堀江保雄が傭員に配布するビラを正門から持込もうとして前同様拒否せられ、更に同月十二日には出勤して正門より入場しようとした庶務課長富松規行は突然牧労監視班員より身分証明書の呈示を要求され、応ぜざれば入場を許さずとして実力で阻止された為遂に入場出来ず為に会社業務に著しい支障を来したが、その際申請人宮川は、監視班員に対し、身分証明書を呈示せぬ者は絶対に通してならぬ旨の指示を与えた。

(ケ) 同年十月十二日牧労の申し入れにより行われる団体交渉に出席する為工場正門から入場しようとした牧山工場副長村上正夫、労務課長若杉豊太郎他二名は牧労監視員等より前同様の手段方法で入場を阻止せられて遂に入場出来ず、為にその業務の遂行を妨害された。

(コ) 十月十日、十一日、十五日等に会社非組合員である石神斐子等数名の女子職員が正門より入門する際牧労監視班員より、所持品の検査を強制せられ、為に入場が遅延し、その業務の遂行を阻害された。

(サ) 十月八日午後一時頃牧山工場内引込線より枝光駅に向け製品等を積んだ貨車十両を連結した列車の引出が開始されたところ、牧労組合員宮原次郎吉の指揮する牧労監視班員等数十名が線路上に座り込み、枝光駅長の制止を聴かず、組合本部の指令により貨車内の検査を強要し、実力を以て貸車の引出を妨げた。

(シ) 十月九日午後一時頃、組合本部の指令により前記引込線上に牧労組合員矢原和彦、庄野昭を含む牧労監視班員等約百二十名が座り込み、石炭貨車の押込み、製品搭載貨車の引出を妨害し、よつて列車の運行を妨げると共に会社の作業遂行を著しく阻害した。

(6)  海上に於る所謂違法ピケ事件

牧労は闘争委員会の決定として十月十日より海上に於ても牧労監視班員の乗込んだ団平船六隻を牧山工場岸壁沖合約四十米附近の海面上に長さ約百七十米に亘つて配置し、各船の間はロープで連結し、そのロープに竹竿束をつるすなどの方法を用いて右岸壁に業務上出入する船舶の航行の妨害を図つた結果

(イ) 十月十日曹達灰を積んで工場岸壁より出港せんとした「芸陽丸」、翌十一日同じく曹達灰を積んで出港せんとした「幸運丸」は共に戸畑側に一旦後退した後、牧労監視船列と岸壁との僅かな間隙を迂回して出港するを余儀なくされ、しかも満潮と、風雨の為、監視船列との接触の危険にさらされ、尚右監視船には夜間標識燈がない為、夜間に於けるその附近海面の船舶航行は極めて危険、且つ困難な状態に陥つた。

(ロ) 十月十二日には牧労は監視船間をつなぐロープに竹竿束、木材などをつけて障碍物を設け、更に戸畑岸壁と監視船とをロープでつなぎ之にも前同様の障碍物を附し、工場岸壁の封鎖を強化した為、同日曹達灰を積んで出港した「三原丸」は、戸畑岸壁、監視船間に障碍物が敷設せられる前に戸畑側より後退して出航するを得たが、この際も監視船と殆んど接触せんばかりとなり、且つ浮游せる竹竿束がスクリユーに巻込まれるなどの危険も生じ、かくて爾後、船舶の出入港は極めて困難となつた。そこで会社は数次に亘つて障碍物の撤去を求めたが、牧労は之に応じないので同日会社の申請により福岡地方裁判所小倉支部より「組合は会社の製品、原料、燃料、材料の出入荷を妨害してはならない。」旨の仮処分命令が発せられ、即日執行せられたが、牧労は之に服する意思を示さず、益々海上封鎖の強化を図り、十月十五日闘争委員会は「海上の完全封鎖を目標とし中国引揚船員の援助により手操船(百屯)三隻、船員七十名を博多港より回漕し、ワイヤーロープ三本を海岸線に張る。」と決定した。

(ハ) 十月十五日には硝子を積んだ艀二隻の出港、十六日には「泰久丸」の入港及び曹達灰、硝子を積んだ「真盛丸」の出港、十七日には曹達灰を積んだ「泰久丸」の出港があつたが、いづれも多大の困難を忍んで迂回しての出入港を余儀なくされ、その際十月十四日より牧労が使用を始めたロープに錨が引掛り或はスクリユーに竹竿が接触するなどの危険が生じた。

(ニ) 十月十八日牧労は監視船を増加し、艀、川船、漁船十隻を岸壁から、ワイヤーロープで約二十米の間隔を以てつなぎ、ロープに竹竿束綱を結びつけ、岸壁と監視船の間にも同様の方法で障碍物を設置し、工場岸壁に対する出入港航路を全く封鎖した。而して同日、各監視船をつなぐロープの上を通過して出港せんとした「オリオン号」(モーターボート)「第一東号」に対し、監視船上の牧労員が故意にロープを引張つた為、之に船体が引掛り、「オリオン号」は危く転覆せんとしたが漸く脱出し、「第一東号」は遂に出港出来ず、会社の要請により海上保安庁若松海上保安部所属ランチの出動を見るに及んで漸く出港出来たが、その際にも故なく監視班員等により一旦停船せしめられ、船内の臨検を受けた。

(ホ) 十月十九日珪砂を積んだ「辰柿丸」が工場岸壁に入港接岸せんとしたが牧労監視船列に妨げられて一時若松港内に待機を余儀なくされ、その後前記出入荷妨害禁止等仮処分命令につき組合員の注意を喚起するための、執行吏半田安美の来会するのをまつて再び工場岸壁前に赴いて投錨し、入港路の啓開をまつたが、牧労監視船乗組員等が右執行吏の航路啓開要求に応じない為、航路上で立往生したところえ、八幡製鉄所岸壁に向け航行中の「友玉丸」が来会せ、之と接触衝突の危険が迫つたが、居合せた曳船が「辰柿丸」を製鉄所側に押したので漸く事なきを得、その後引続き厳重抗議の結果、牧労監視船乗組員もワイヤーロープを解いて航路を開いたので、「辰柿丸」は同日午後四時半頃、工場岸壁に着岸出来たが、この為平素入港に三十分しか要せぬところを七時間も要し、且つ積荷の陸揚は翌日に延期を余儀なくされたが之は前記仮処分命令を無視した牧労の甚だしい出入荷妨害行為といわねばならない。

(ヘ) 更に十月二十日午後三時頃、前記「辰柿丸」並に「幸陽丸」が同日午後五時に各出港する事になつたので、会社は牧労海上監視班に航路の啓開を申入れたところ、一旦之が了承ありたるにも拘らず、責任者不在を理由に午後五時に至るもその実行なく、遂に午後五時四十分、牧労本部の申請人金子勇、及び統制部員平野次男宛に抗議したところ、右平野は午後六時半頃現場に来たが、速に航路を開かせず、再三交渉の末、午後七時十五分過に両船は漸く出港し得たが右妨害の為予定出航時刻に遅れること二時間二十分、時に関門港の潮流は逆流しはじめたので、航行は著しく困難となり製品の出荷は甚しく遷延せしめられたほか「辰柿丸」は次の寄港地えの予定到着時刻に遅れた為、同地に於ける積荷契約の履行に遅滞を生じ、又曳船料など不測の経費の支払を余儀なくされ甚大な損害を蒙らせられた。

(ト) その後も牧労は前述の如き方法を以ていよいよ海上封鎖を強化し、争議終結に至る迄前記仮処分の趣旨に反して不法に原料製品等を積載せる船舶の出入港を阻止し、以て会社の業務遂行に妨害を加えると共に他の一般船舶の航行にも著しい危険を生ぜしめた。

(六)  以上が違法事件の主要な事例であるが、これらのうち、司直の取調を受け、昭和二十九年三月十三日福岡地方裁判所小倉支部に被告事件として起訴されたものは次の通りである。

(1)  第五項の(2)の所謂宣伝カー包囲事件について申請外矢原和彦の威力業務妨害被告事件

(2)  第五項の(3)の所謂牧従事務所に於る荷札剥取事件について申請人池田明の住居侵入、器物毀棄被告事件

(3)  第五項の(4)の所謂社宅等デモ事件について、申請外井上敏之申請人池田明の暴力行為等処罰に関する法律第一条違反、住居侵入被告事件

(七)  以上によつて、申請人等が自から、又は他の牧労員等を教唆し若くは之と共謀して不法行為を行つた事が明らかであるのは勿論、申請人金子、同宮川が夫々正副闘争委員長として、争議期間中その統制下にある組合員等が前述の如き違法行為を為し、又は為さんとするに当り、之が制止又は予防の措置を講じ適正な手段を以て争議がなされるよう統制指導すべき義務あるに拘らず却つてそれらの違法行為を容認奨励する態度を以て、この争議全般を指導して来た事も亦明らかであり、従つてそれらが会社が昭和二十九年四月二十二日附を以て申請人等に通告した社員就業規則の各条項に該当し、当然懲戒解雇に処せらるべきものである事は多言を要しないところである。

申請人等はその主張に於て徒らに事実を否定し、且つ会社が支配介入して牧従の結成を促し、罷業破りを育成助長し、労働協約上の義務に違反して争議の切崩しに狂奔し申請人等日頃の正当活溌な組合活動を嫌うの故を以て就業規則違反行為に藉口して懲戒解雇し、以て差別待遇をなしたと言うがその然らざる所以は既に述べた通りである。

しかし仮に会社に申請人等の言う不当行為が在るとしても、これによつて申請人等のなした行為の違法は正当化されない。

(八)  次に申請人等は本件仮処分申請が緊急性必要性を有すると主張するが、申請人等は懲戒解雇の時から現在迄、次に述べるような定収入を有し、之を以てその生計を維持するに充分であるから、此の点に於てもその主張は理由がなく、本件申請は却下を免れないものと信ずる。

(イ)  申請人金子勇は解雇の時から引続き現在迄、牧労の規約に定める補償規程に基き、昭和三十年三月迄は月額二万八千七百八十円、同年四月以降は月額二万七千八百円を、尚このほか盆暮には相当額の慰労金をも組合から各支給されている上、同年五月一日八幡市市議会の議員に選出せられ、同月より歳費、研究費、委員会手当等を合して月額四万円の支給を受けているほか、中元慰労金として相当額を支給せられ、以上収入合計は税金を差引いても月額五万九千円を下らない。

(ロ)  申請人宮川清城も申請人金子と同じく解雇の時から現在迄引続き牧労から補償を受け、昭和三十年三月迄は月額二万七千九百四十円、同年四月以降月額二万八千三百六十円を、又そのほか盆暮には相当額の慰労金を組合から各支給されている上、同年五月一日、戸畑市市議会の議員に選出せられ、同月より歳費、委員会手当等を合して月額三万一千円の支給を受けているほか、相当の中元慰労金も受領して居り以上収入合計は手取月額五万一千円を下らない。

(ハ)  申請人池田明も前記申請人等と同じく牧労から補償を受け、昭和三十年三月迄は月額一万七千二百二十円を、それ以降現在迄は月額一万八千八百四十円を支給せられているほか、盆暮にも相当額の慰労金の支給を受けている。

旨陳述した。(疎明省略)

理由

被申請人が東京都中央区銀座四丁目一番地に本店を有し、板硝子曹達等の製造等を営む株式会社であり、申請人等はいづれも被申請会社牧山工場の従業員であり右工場勤務の従業員により組織された牧労の組合員であつて申請人金子勇は同組合の執行委員長、同宮川はその副執行委員長、同池田明はその代議員の役職に就いているものである事、牧労は工場内各職場の配置定員数に関するその主張を貫徹すべく、昭和二十八年九月十日正午より同年十月二十五日迄同盟罷業を実施しその間申請人金子勇は闘争委員長として、申請人宮川清城は副闘争委員長兼統制部長として右争議を指導した事、会社が本判決事実摘示中の申請理由第三項掲記の如き事由に基き、昭和二十九年四月二十二日附書面を以て各申請人等に対し懲戒解雇に処する旨の各意思表示を為した事右就業規則には次の通り規定されていること「第百七十七条(懲戒事由)

社員が第十三条に定める基本義務の完全な履行を怠り、左の各号の一に該当する行為を行つたときは懲戒に処する。

二、故意に作業能率の低下又は作業の阻害を図つたとき

十二、この規則以外の会社の定める規則規程に従わないとき

二十七、故意に他人の作業能率を低下させ、若しくは他人の作業の執行を妨害したとき

三十二、許可なく所定の通用門以外の場所から工場に出入したとき

三十三、守衛の行う所持品検査その他の職務行為に対し正当な理由がなくこれを拒んだとき

三十七、許可なく外来者を工場内に誘い入れたとき

四十三、工場内において喧嘩、暴行、脅迫、監禁、その他これに類する行為を行つたとき

四十六、会社の副利厚生施設(居住施設を含む)における秩序又は風紀をみだしたとき

四十七、その他工場内の規律をみだし、若しくは秩序又は風紀をみだす行為があつたとき

四十九、故意又は重大な過失により会社の建物、設備、機械器具、什器、製品、その他の物品を毀損、滅失又は設定変更したとき、若しくは重大な災害事故を発生させたとき

五十七、その他故意又は過失により、会社に重大な不利益を与える行為を行つたとき

五十八、刑罰に触れる行為を行つたとき

五十九、その他会社の信用体面を著しく失うような行為を行つたとき

第百六十九条(他人をそそのかした場合等)

他人をそそのかして違反行為を行わせた者、若しくは他人の違反行為に共謀した者に対しては違反行為に準じて懲戒を行う

前項前段の場合そそのかした程度が極めて著しいと認められるとき又は本人自らも当該違反行為を行つたときは原則として本人の懲戒を加重する」

はいづれも当事者間に争がない。

申請人等は会社が解雇事由として挙げた事実は、いづれも真実に反し、又は就業規則所定の懲戒解雇の条項に該当しないものであるから、右懲戒解雇処分は就業規則の解釈適用を誤り、懲戒権を濫用してなされた無効なものであると主張し会社はこれを争うのでこの点について按ずるのに、

(一) 本判決事実摘示中の申請理由第三項(1)の(イ)の解雇事由該当事実(以下単に違法ピケ事件と言う)として会社が主張するところについて、

当事者間に争のない事実並に成立に争なき乙第七十七、第百二十、第百四十三、第百五十乃至第百五十三、第百八十四号証、証人山村次郎の証言により真正に成立したと認められる乙第二百十二号証の一、二証人井口春雄の証言、申請人宮川清城に対する本人訊問の結果(第一回、第二回)及び右証言並に右本人訊問の結果により真正に成立したと認められる甲第十五号証の一乃至七、証人北川福太郎の証言の一部、証人大場与四郎、同竹本良一、同小野忠男の各証言並に右各証言により真正に成立したと認められる乙第百四十八条、第百四十九、第百五十四乃至第百六十七号証を総合すれば、牧労が昭和二十八年九月十日の争議開始当初より、その終了した同年十月二十五日迄の間組合は副闘争委員長兼統制部長である申請人宮川清城を長とする監視班を組織し、之を会社牧山工場各門及び鉄道引込線などの周辺の要所並に同工場岸壁前面の海上などに分散配置し、闘争委員会などの決定方針に基き右申請人の指揮監督の下に所謂ピケッティングを実施し、陸上に於ては、工場正門、通用門、診療所門、稲荷門に対し、最初は昼夜二交替制、間もなく三交替制に改め、平均総数百二十名位の、堂山門に対しては同じく六十名位の、鼠島門に対して同じく四十名位の、松ケ島門、港町門に対しては同じく四十名位の組合員が立哨監視に当つていたが、同年十月七日早曉、争議から離脱した一部組合員が海上より工場内に入場し就業してからは監視班員の数は著しく増強せられ、監視の方法も、同年九月十日の闘争委員会に於て、会社えの来客中闘争委員長の許可した者以外は工場内に立入らせぬとの方針を決定し実施したのであるが前記の一部組合員の入場就業が行われて以後、牧山工場診療所が右入場組合員とその家族などの面会連絡の場所に利用されている疑があるとして、工場えの入出場者に対し入出門の際監視班員に於て調査するほか、入出場の会社非組合員に対してもその都度身分証明書の呈示を求める方針を決定実施し、更に同年十月十五日の闘争委員会に於て爾後個人に対するピケットの強化並に請負業者に対して罷業の実態を阻害するような作業はせず、且つ入門前予め、組合に対し作業内容、責任者名、就業人員を提示するとの条件を附し之を履行した場合に入場を許す旨の方針を決定実施し、即日、牧労統制部長の名を以て堂山門前に請負業者に対する右方針を掲示した事、他方海上に於ても組合は争議開始直後から十月七日頃迄は数名の監視班員を乗せたチヤッカー船一隻位を牧山工場岸壁前面海上に遊弋させ、昼夜三交替で海上の監視に当つていたが十月八日頃には、海上監視班員総数も百二十名位に増し、又移動監視船も数隻を数えるに至り更に同月十日昼頃から監視班員を乗せた団平船六隻を工場岸壁前面約四十米沖合の海上に南北に長さ約百七十米に亘り一列縦隊に投錨配置し各船の間はマニラロープで連絡して長さ南北に約四百七十米の工場岸壁の北端から南にかけてその約三分の一相当の前面海上を塞ぎ、右船列は個々の船に入替はあつたが十月十六日頃迄は六隻より成り、その間同月十一日には右各船間をつなぐロープに竹竿束を結びつけ、之を海面に浮べてその間より小型船舶が出入するのを防ぎ、同月十二日には会社の申請によつて福岡地方裁判所小倉支部より組合に対し会社のなす製品、原燃、材料出入荷を妨げてはならない旨の仮処分命令が発せられ即日執行されたが牧労は同日竹筏をロープで監視船列最南端の船に結びつけ、右筏を工場岸壁南端附近にある廃滓捨用コンベア下附近の海面に浮游させ、又最北端の船と工場岸壁北端に接する鉄道用地間にも同様ロープを張りめぐらして工場岸壁前面の海上をほとんど塞ぎ、尚申請人宮川清城は移動監視船上より演説を行うと共に統制部長名を以て組合本部前に、一班七十五名乃至九十三名位より成る海上監視三班の編成を掲示発表し、同月十五日の闘争委員会は、海上の完全封鎖を目標とし中国引揚船員の援助により百屯級の手操船三隻、船員七十名を博多港より回航して海上監視班に加える事並にワイヤロープ三本を海岸線に張る事を決定し、十月十七日には、新に二隻の船を、翌十八日頃にも更に二隻を監視船列に追加繋留、都合十隻を以て工場岸壁前面海上をその南端のわずか一部を残して閉塞し且つ各船の間を更にワイヤロープでつなぎ之に竹竿束、渡板、漁網等を結んで海面に浮游させ、尚右監視船列自体は潮流風向の為に常に浮動し時には工場岸壁に著しく接近して入港中の船舶と接触する危険もあり、かかる状態は争議が終了する迄継続した事が疏明せられ、(前顕各証中右認定の趣旨に反する部分は之に符合する他の各証拠に照らして直に措信し難い。)かかる状況の下で

(1) 陸上に於ては、

証人桑原勳、同東本光男の各証言並にそれら証言により真正に成立したと認められる乙第百二十二乃至第百二十四号証及び証人庄野昭の証言(第一回)の一部を綜合すれば、同年九月十一日午後二時頃東京製綱株式会社小倉工場に勤務する桑原勳が、その担当業務遂行の為牧山工場を訪れ、正門より入場せんとしたところ、居合せた十五、六名の組合監視班員から組合発行の入門許可証を持たぬ者は入場させられぬと人垣を以て阻止されたので、その所為の非なるを説き、入場の交渉を続けているところえ、申請人宮川も姿を現わしてその事情を聞いたが、入場させられぬと言つて取り合わず、かく折衝すること時余に及んだが入場出来る見込のないところから遂に之を断念し、その業務遂行の目的を果し得ないまま立去つた事が疏明され、(証人庄野昭の前顕証言並に申請人本人宮川清城に対する訊問の結果(第二回)中右認定に反する部分は前顕他の各証に照らして措信出来ない。)

前顕庄野昭の証言並に同証言により真正に成立したと認められる乙第百二十五乃至第百二十七号証及び証人挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百八十五号証を綜合すれば同年十月七日午前十一時四十三分頃、八幡市警察署員、稲永巡査部長、同平本刑事の両名が公務の為牧山工場正門より入場せんとし、所携の警察手帳を居合せた監視班員等に示したところ、前同様、組合発行の入門許可証を受けて来る様要求されて之を阻止された為、遂にその目的を果さずして立去つた事が疏明され(証人庄野昭の前顕証言中右認定に反する部分は前顕他の各証に照らして措置出来ない。)

前顕挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百九十二号証によれば、同年十月十三日午後二時頃会社幹部転出に付東京より、牧山工場に挨拶に訪れた株式会社竹吉商店代表者細川肇が組合本部に対し、入場の許可を求めたところ、特にその要なきものと認むとして之を拒否され、入場出来なかつた事が疏明され、

前顕挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百八十六号証の二、証人田原哲夫の証言並に同証言により真正に成立したと認められる乙第百八十六号証の一、を綜合すれば、同年十月十四日、午前十時三十五分頃、福岡県経済部水産課技師高木岩蔵が会社所有船舶の改測手数料徴収の公務の為工場正門より入場せんとしたところ、居合せた監視班員等に阻止せられ、牧労発行の入門許可証の付与を得て来る様要求されたので組合本部に赴きその発行を求めたが拒否された為、やむなく正門々扉越しに会社係員と面談し、辛うじて所用を果した事が疏明され、証人村上定雄の証言によれば同年十月二十日頃の午前十一時頃、三菱化成工業株式会社々員村上定雄ほか二名が、その担当業務遂行の為牧山工場を訪れ、正門より入場せんとしたところ、前同様にして之を阻止されたので、やむなく組合本部に赴き、入門許可証の交付を求めたが、同人の勤務先が労働組合を弾圧しているから左様な会社の者は入場させられぬ等と罵られた上言を左右にして容易に許可証を与えられず、種々折衛の末、漸く午後三時頃に至つて(この間約四時間を要す)その交付を受け入門するを得たが、この為甚しく時間を空費させられてその業務遂行に大きな支障を来した事が疏明され、

前顕挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百八十七号証の一乃至四、弁論の全趣旨により当裁判所が真正に成立したと認める乙第百三十乃至第百三十二号証、及び証人坂井俊夫、同小田辰治(第一回)の各証言を綜合すれば、同年十月十日午前五時五十分頃、原田新聞販売所の配達人が牧山工場に差入れるべき新聞百数十部を携えて工場正門に至るや、監視班員に入場を遮ぎられ、その大部分を監視班員詰所に留め置かされ、僅か十数部の配達のみを許された事、十月十一日夕刻にも津田新聞販売所の配達人が会社から特に注文をうけた新聞を携え正門より入場せんとしたところ前同様阻止されて配達出来ざりし事、十月十二日、十三日の各夕刻にも、会社取りつけの各新聞販売所の配達人等が前同様入門を阻止された為いづれも夕刊を翌日の朝刊に折込んで配達するを余儀なくされた事が各疏明され(証人坂井俊夫、同小田辰治の前顕各証言中、右認定に反する部分は前顕他の各証に照らして措信出来ない。)、証人原田純子、同挾間敬夫の各証言を綜合すれば、会社従業員の妻原田純子が同年十月十六日疾病治療の為、牧山工場診療所に赴くべく、組合本部に出向いて「入門許可証」の交付を乞うたところ、同女の夫が今回の争議から離脱し、工場内で就業中の組合員の一人であることを理由に散々侮辱的言辞を浴びせられた末その発行を拒まれ、やむなく診療所通用門に至り、会社守衛に服薬の取次方を依頼中、報により会社非組合員挾間敬夫がその場に赴き、居合せた監視班員等にその非を詰つたがこの時その場に来会した申請人金子勇は、争議脱落者の家族に対する限りたとえそれが診療の目的であつても絶対にその入門を許さぬ方針である事を宣明し、入門拒否の態度を固持した為遂に同女は当日入門して治療を受け得ず為に治療の時期を失して病状が悪化し、回復が遅れた事が疏明され、

証人須藤華子の証言によれば、同女も会社従業員の妻でその夫は争議から離脱し、工場内で就業した組合員の一人であるが十月十七日頃同女が長男の眼病治療の目的で工場診療所に赴くべく診療所通用門より入場しようとして監視班員に阻止され「入門許可証」を組合本部より受ける様言われたので同本部に赴き事情を説明してその発行を求めたところ前述の原田純子の場合と同様の理由でその発行を拒まれた為遂に同日長男に診療を受けさせる事が出来ず、為にその病状が悪化した事が疏明され、証人山根正雄の証言、及び証人挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百九十号証の一、二、第百九十一号証を綜合すれば、同年九月半頃戸畑鉄工株式会社専務取締役山根正雄は、右会社が牧山工場より受註していた機械の設計に関する打合せ業務の為、牧山工場を訪れ、堂山門より入場せんとして同所に居合せた十四、五名の監視班員より、組合本部発行の入門許可証を持たぬ外来者は絶対入場させぬといつて阻止されたので、やむなくその本部に赴き申請人宮川に会い、事情を具陳して入門許可証の発行を求めたが同申請人が之に応じなかつたので、遂に入場してその用件を果す事が出来ず、為に同会社の業務の遂行に多大の支障を来した事、同年十月半頃、右山根正雄は、右会社が融資を受ける上に必要な牧山工場発行の証明書を貰う為、牧山工場に入場しようとして組合本部に赴き「入門許可証」の発行を求めたが、拒否された為、右業務の遂行を妨げられ、よつて右会社が財産上の損害を蒙つた事、又十月十二日にも壱岐尾鉄工所の大田順一が右山根と同様の用件で、親和工業株式会社の入川勇が納品用務の為、西谷電機合名会社の恵藤聰が請求書提出の為、更に翌十三日にも右恵藤が受註品に関する打合せ用務の為いづれも牧山工場に入場しようとして組合本部に赴き、入門許可証の発行を求めたが拒否された為、入場出来ず、その業務の遂行を妨げられた事が疏明され、(申請人宮川清城に対する本人訊問(第二回)中右認定に反する部分は前顕各証に照らして措信出来ない。)

成立に争のない乙第七十七、第二百九、第二百三十、第二百三十一号証並に証人坂井俊夫、同松村正、同吉村稔の各証言及びそれらの証言により真正に成立したと認められる乙第百三十六、第百三十八乃至第百四十号証、弁論の全趣旨により当裁判所が真正に成立したと認める乙第百四十一、第百四十二号証、申請人本人宮川清城に対する訊問の結果(第二回)を綜合すれば、同年十月八日朝、申請人宮川の指揮する組合員、外部団体からの応援者を交えた約七、八十名の監視班員が、牧山工場堂山門前に人垣を築き、折から会社との請負契約に基く請負業務遂行の為右堂山門より入場せんとした上田建設工業株式会社、木村鉄工株式会社等の請負業者並にその従業員百数十名を、組合の指令によるとして阻止したので請負業者等は一旦その場を引揚げて協議した末代表三名位を送つて組合本部と入場の交渉をしたが、その間、右入場阻止は組合の決議により申請人金子、同宮川が了承の上その実施を決定し、右金子の指令により右宮川が自から直接現場の指揮をして実施したものであり、向後請負業者が入門するには予め、工事契約書、作業内容、工事期間、作業人員氏名、責任者氏名を組合に示せば之を検討した上でその許否を決するものとする旨の回答を得たのみで、遂に当日は入場し得ず、よつてその業務の遂行を妨げられた事が疏明せられ、(証人坂井俊夫、同松村正、同吉村稔の各証言並に申請人本人宮川清城に対する訊問の結果(第二回)中右認定に反する部分前顕他の各証に照らし直に措信出来ない。)

証人池田和彦の証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第百三十三乃至第百三十五号証並に証人庄野昭の証言(第一回)を綜合すれば、同年十月九日午前十時半頃、工場構内で栗組のトラックが酸素瓶の空瓶を積み、港町門から出場しようとするや、居合せた監視班員及び応援にかけつけた組合員等は、門前に、密柑箱をならべ之に木材を渡してその上に座り込み栗組の責任者の再三なる要求にも拘らず右の態度を固持してその出門を阻止し、為に右トラックは争議終了迄、工場外に出る事が出来ないでその業務の遂行を妨害された事が疏明せられ(証人庄野昭の前顕証言中右認定に反する部分は措信出来ない)証人挾間敬夫の証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第百九十三、第百九十四号証、並に北川福太郎の証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第百四十六号証、申請人本人宮川清城に対する訊問の結果(第三回)を綜合すれば、同年十月十二日午前八時十五分頃出勤して正門より工場内に入場せんとした牧山工場庶務課長富松規行は、居合せた監視班員から闘争本部の指令なりとして身分証明書の呈示を要求され、之に応じなければ入場を許さずとして人垣を以て阻まれ、その場に来合せた申請人宮川も又身分証明書の呈示を求めてやまず、右富松が之を拒むや、右宮川は監視班員らに対し、身分証明書を出さない者は絶対に通してはならない事をはつきり命令する旨申渡し、その入場を拒否した為、入場してその業務を行う事が出来なかつた事が疏明され、尚同月九日にも、外部の自動車に乗つて工場正門より入場しようとした会社非組合員友沢潤次郎は所定の腕章を附けていたにも拘らず監視班員らによつて入場を阻止され、組合本部に赴いて交渉したが同日の闘争委員会の決定により今後外部の自動車は一切入場させぬ方針であるとして拒否された事も疏明され、(証人北川福太郎同吉村稔の各証言、申請人宮川清城に対する本人訊問の結果(第三回)中右認定に反する部分は前顕他の各証に照らして措信出来ない。)

当事者間の争なき事実並に証人坂部武夫の証言(第二回)及び同証言により真正に成立したと認められる乙第百九十五号証成立に争なき乙第九十九号証前顕北川福太郎の証言の一部を綜合すれば、同年十月十二日午後二時五十分頃、組合の申入れにより行われる団体交渉に出席する為工場正門から入場しようとした牧山工場副長村上正夫、同工場労務課長若杉豊太郎ほか二名が監視珍員らによつて前叙の富松規行の場合と同様の手段方法で阻止されて遂に入場出来ず為にその業務の遂行を妨げられた事が疏明せられ、(証人北川福太郎の証言中右認定に反する部分は前顕他の各証に照らして措信出来ない。)

証人高口百登美の証言、証人挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百九十六号証の一乃至八によれば、同年十月十日朝、出勤の為正門より牧山工場に入場しようとした社員石神斐子、同佐藤智恵子、同伊藤登美子はいづれも居合せた監視班員らから取囲まれ、従来の入場手続のほかにその携帯品の検査に応じなければ入れないと言つて入場を阻止せられたので、一旦は之を拒んだが事情やむなく之に応じて漸く入場し得たけれどもこの為就業が遅れその業務を妨害された事、同日午前九時頃社用を帯びて牧山工場正門より出場しようとした社員枳穀玉代も前同様にして阻止せられたのでやむなく携帯品の検査に応じたが出場に手間取り、その業務を妨害された事、又十月十日頃の朝及び十月十二、三日頃の朝、出勤の為正門より入場しようとした社員高口百登美、十月十一日朝出勤の為正門より入場しようとした社員中村瑤子、同藪内靖子、十月十五日朝出勤の為正門より入場しようとした社員上村桂子、十月十六日朝出勤の為正門より入場しようとした社員権田トヨ子らも前同様にして入場を阻止された上所持品検査に応ずべき事を強要せられ、そのうち之を拒み続けた中村瑤子は本部に赴く様要求され遂に入場し得ず、他の者は結局之に応じて漸く入場し得たがこの為就業が遅れるなどいづれもその業務を妨害されたほか、権田トヨ子は工場守衛に届けるべくその家族から預かつた荷物を取上げられた事が疏明せられ、(前顕北川福太郎の証言中右認定に反する部分は前顕各証に照らして措信出来ない。)更に前顕原田純子の証言によれば治療を受ける為牧山工場診療所に通つていた同女は十月六、七日頃から診療所門に於て監視班員らから携帯品を預けなければ入門させぬと言われ、やむなく之に応じて入場するを得ていた事、又前顕挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百八十八号証によれば、右原田と同様の目的で診療所に通つていた会社従業員の妻辻喜美も十月十一日診療所門に於て前同様にして携帯品の検査を強要せられ之を拒んだところ本部迄来いと要求され、結局之は免れたけれども翌十二日には入場に際し携帯品の検査を受けて後入場するを余儀なくされた事が各疏明せられ、

前顕挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百九十八号証の一、二、証人宮原次郎吉の証言(第一回)並に同証言により真正に成立したと認められる甲第十六号証、乙第八十二乃至第八十五号証、証人北川福太郎の証言を綜合すれば同年十月八日午後一時頃、牧山工場鉄道引込線より国鉄枝光駅に向け製品等を積込んだ貨車十輌より成る日本国有鉄道公社の列車が進行を始めんとしたところ、附近に居合せた多数の組合監視班員等が線路上に座り込んで停車を余儀なくさせ、報により現場にかけつけた枝光駅長の制止を聴かずこれ又報により現場に来会した組合執行委員宮原次郎吉は組合の指令により会社製品の出荷及び原料の入荷を停止させる為右の挙に出たものであると称し更に貨車内部を検査せしめる様要求するなど時余に亘つて列車の進発を阻止し、以て列車運行業務を妨害した事が疏明せられ、(前顕宮原次郎吉、北川福太郎の各証言中右認定に反する部分は前顕他の各証に照らして措信出来ない。)

前顕挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百九十九号証、弁論の全趣旨により当裁判所が真正に成立したと認める乙第二百六、第二百七号証、証人力丸要助同吉武重彦の各証言並に右各証言により真正に成立したと認められる乙第八十六乃至第九十五号証を綜合すれば、同年十月九日午前十時頃前記枝光駅長が牧山工場鉄道引込線を巡視中監視班員らから、本日組合としては会社製品の出荷を全面的に阻止することになつたから協力あり度い旨申出を受けたので之を拒み、列車の進行妨害は違法であるから中止する様警告したにも拘らず、同日午後一時頃から多数の監視班員等が右引込線路上に座込み右午後一時頃空の石炭用貨車二十三輌の引出のみは許したがその後は列車の往来を不能ならしめ、よつて日本国有鉄道公社のなす製品搭載貨車三輌の引出業務石炭搭載貨車六輌の押込み業務を妨害し且つその為会社に右貨車の留置料、搭載貨物の保管料など無用の出費を余儀なくさせて財産上の損害を蒙らせた事が疏明せられ、(前顕力丸要助、吉武重彦の証言中右認定に反する部分並に証人徳永巖の証言は右認定に符合する前顕他の各証に照らして措信出来ない。)

証人赤星智雄の証言及び同証言並に証人池田和彦の証言により真正に成立したと認められる乙第百七十六乃至第百八十一号証によれば、予てより争議から離脱して牧山工場に入場し就業していた牧山工場土建課浚渫埋立係員赤星智雄は、同年十月二十三日午前十一時頃、伝馬船に乗り牧山工場岸壁南端の松ケ島船溜附近の浚渫作業見廻り中組合海上監視班員五名の乗つているチヤツカー船により、その反抗にも拘らず、船諸共対岸に拉致され、実力を以て上陸せしめられた上、組合員等により両腕をとらえられたまま組合本部迄逮捕連行せられた事が疏明せられ、

(2) 海上に於ては、

前顕乙第百四十八、第百四十九号証によれば、十月十日午後二時頃、芸陽丸(二百九十屯)が同月十一日午後八時頃幸運丸が又同月十二日午後八時頃三原丸(二百八十屯)が夫々製品を積んで出港するにあたり、工場岸壁前面海上を塞ぐ組合監視船列によつてその進路を著しく制約せられた結果、いづれも船尾を先にしたまま船列と岸壁間の狭い水道を縫うて戸畑側水路に向け後進するを余儀なくされ、その航行には平生にない危険が伴つた事、又十月十五日午前十時頃製品を積んで出港した艀二隻第百三十三号山九丸、八十九号山九丸についても、既に北側戸畑側の水路は塞がれた結果監視船列と岸壁間の狭い水道上で曳船に曳行され、監視船列南端を迂回して八幡側水路より出航を余儀なくされたが、曳行されている為迂回行動意にまかせず、監視船列との接触の危険にさらされ、航行に困難を来した事、更に十月十六日午後二時頃入港した泰久丸(二百九十屯)についても、監視船列を迂回して八幡側水路より入航するを余儀なくされたが、その際航行可能な水路の幅が狭いため左舷の錨が監視船列のロープに引掛り、着岸に難渋し、翌十七日午後十時半頃出港するにあたつても、船列を迂回して八幡側水路より出航する不便を忍ばしめられた事が疏明せられ、

前顕乙第百四十八、第百四十九、第百六十一号証、及び証人西郷正雄の証言によれば十月十六日午後五時頃製品を積んで出港せんとした第十五真盛丸(八百五十屯)は組合監視船列によつて工場岸壁前面海上が塞がれている為出港出来ず、組合に航路の啓開を交渉した結果、船尾後方に当る八幡寄りの海面が開かれたが障害物の存する狭い水路を自力で航行するのは多大の危険を伴う為やむなく、曳船を雇い、船尾より監視船列外海上に引出し辛うじて出航するを得たけれども、この為出港に手間取り尚通常不要の曳船料の支出を余儀なくされた事が疏明せられ前顕乙第百四十八、第百四十九号証及び証人竹本良一の証言並に証人朝来力の証言の一部によれば、十月十八日午後七時半頃製品積込の為工場岸壁に入港接岸せんとした幸陽丸(二百九十屯)は監視船列が岸壁前面海上の相当部分を塞いでいる為入口を発見し得ず、加えて監視船が夜間標識灯をつけていない為、その間に張つてあるロープに気附かず之を横切ろうとして転舵しつつあるところえ八幡側より「くろがね丸」(二千屯)の航行し来るに出会い接触寸前に辛うじて之をかわしたがその後岸南壁側に入口があるのを発見し、最南端の監視船を迂回して入港せんとしたところ乗組の監視班員等が同船にむかつて右水路に綱が張つてあるのを承知なら入港しろと虚偽の事実を叫んで脅かし、その航行妨害の挙に出た為同船は危険ありとしてやむなく工場岸壁南端の六号クレーン下に仮泊し遂に同夜は工場岸壁の所定の箇所に着岸し得なかつた事、及び八隻より成る監視船列に応援の漁船二隻が加わり、工場岸壁前方海上が全く塞がれるに至つた同日午後九時頃右船列最南部の監視船たる二隻の漁船の間に張つてあるワイヤロープが緩んでいたところから、その上を通過出港せんとしたサンパン「第一東丸」は乗組の監視班員等が右ロープを引張つた為それが船首に引掛つて果さず、会社の要請による海上保安庁若松海上保安部のランチの出動を見るに及び海上監視班員等も漸く水路を啓開したので出港するを得たがその際監視班員等によつて故なく船内の臨検を受けるなどの妨害を受け、又その頃出港せんとしたサンパン「オリオン号」も右同様の妨害行為を受けた事が疏明せられ、

前顕乙第百四十八、第百四十九号証前顕挾間敬夫の証言により真正に成立したと認められる乙第百九十七号証、証人西郷正雄の証言、並に同証言により真正に成立したと認められる乙第百六十八乃至第百七十一、第百七十五号証及び証人半田安美前顕大場与四郎の各証言、証人栗山登美男の証言の一部によれば、十月十九日午後零時半頃、原料を積んだ「辰柿丸」(八百九十屯)が工場岸壁に入港接着せんとしたところ、その前面海上を塞ぐ十隻の監視船列に妨げられて果さず、一時若松港内で待機した後、前叙認定の製品、原燃材料の出入荷妨害禁止等仮処分命令に基き右妨害排除の要請を受けた福岡地方裁判所々属執行吏半田安美の現場到着をまつて、同日午後三時半過に再び工場岸壁前の海上に赴き、投錨仮泊して入港水路の啓開をまつたが監視船乗組員等が言を左右にして右執行吏の航路啓開要求に応じない為八幡製鉄所岸壁えの航路上で立往生させられているところえ右岸壁に向け航行中の「友玉丸」(八千屯)が来会せたので之と接触衝突の危険にさらされたが、居合せた曳船の働により危く難を避け、その間組合と種々折衝の結果漸く、同日午後四時過に至つて組合本部の指示によりはじめて海上監視班員らも入港路を啓開したので午後四時半頃工場岸壁に着岸出来たが、かようにして入港に平素の数倍の時間を要し、且つ入港が夕刻に至つた為積荷の陸揚を翌日に延期するを余儀なくされ、又翌二十日午後三時頃、会社より組合に対し、右「辰柿丸」及び前記「幸陽丸」が午後五時頃出港するから、出港水路を啓開する様申入れたところ之が承諾を得たにも拘らず、右時刻を過ぎてもその実行がなくて右両船は出港出来ず、午後五時五十分過に会社より組合本部に対し強く抗議した結果平野統制部員が現場に来会したので之と折衝を重ねた末漸く午後七時過に航路が啓開されるに至つたので右両船は二時間余りも遅れて午後七時十五分頃相次いで出港し、「辰柿丸」は前述の様にして出入港が遅れた為次の寄港地宇部えの到着が遅れ、同地に於る積荷契約の履行に遅滞を来し且つ前叙認定の「真盛丸」と同様の方法で出港するを余儀なくされるなどいづれもその航行には普段に見られぬ危険と困難が伴いその業務の遂行を著しく妨害されたほか「辰柿丸」は平素不要の曳船料の支払により財産上の損害を蒙り、又十月二十三日製品積込の為入港し、翌二十四日出港した「福祥丸」(七百屯)も又前同様にして入出港の水路が塞がれていた為その啓開方を交渉して漸く入出港するを得たがその為入出港が遅延し、且つ出港は前記「真盛丸」と同様の方法によるを余儀なくされるなどこれ又平素にない危険困難と出費とを忍ばしめられ、同じく二十三日に入港し二十四日に出港した「泰久丸」について、同様入出港に危険と困難が伴つた事が疏明せられ、

前顕乙第百四十八号証、証人松島要次郎の証言前顕大場与四郎の証言並に同証言により真正に成立したと認められる乙第百七十二乃至第百七十四号証、証人赤星智雄の証言並に同証言により真正に成立したと認められる乙第二百二十九号証によれば、会社所属の曳船第三旭丸は、十月十四日午前十時頃、工場岸壁北端附近沖合海上に於て廃滓船を曳行中、組合移動海上監視船に追附かれ移乗した二名の海上監視班員によつて船内の臨検を受けその業務の遂行を妨げられたほか十月二十三日午前十時半頃監視船列の南端を迂回して入港着岸せんとした際、潮流によつて監視船列が岸壁側に押寄せられそれと岸壁の間隔が著しく狭まつていた為行動意にまかせず遂に監視船間に張りめぐらしてあるワイヤロープをスクリユーに巻きつけ、航行不能に陥つたので、その取りはずし作業の為乗組の監視班員等にワイヤロープを緩めるよう交渉したが、同人等は自分達の一存では出来ない、本部の許可を受けろといつて聴入れず、やがて現場に来会した本部員も同趣旨の事を述べるのみで協力を肯じなかつたのでやむなく会社は翌二十四日、潜水夫を雇い右ワイヤロープを切断して漸く之を解放するを得た事、並に十月十日より争議終了迄、工場岸壁前面海上を塞ぐ組合監視船列の為、之と岸壁間の海上に浚渫船を乗入れる事が出来ず、その間同海面に於る会社の浚渫作業遂行が妨げられていた事が疏明せられ、(証人栗山登美雄、同朝来力、同井上政夫、同中村多喜雄、同盆子原康通の各証言中右各認定に反する部分は之に符合する他の前顕各証に照らして措信出来ない。)

更に右に認定した諸事実並にそれらの発生した争議期間中申請人金子は闘争委員長、(同宮川は副闘争委員長兼統制部長)として争議指導の最高責任者であつたという争のない事実及び成立に争のない乙第五十八号証とを綜合すれば、以上認定の諸事実はすべて右申請人両名が主導権をもつ組合闘争委員会に於て決定された方針に則り同人等の発した指令、指示若くは具体的な各紛糾事態の発生に際し、その現場等に於て争議指導最高責任者としての右各申請人乃至は彼等が主導権をもつ本部が発した指示に準拠して組合監視班員乃至は本部員が行動した結果として発生したのである事も亦疏明せられたと言うを妨げない。尤も申請人宮川清城に対する本人訊問の結果(第二回)、証人坂井俊夫、同小野忠男、同栗山登美雄、同中村多喜雄、同盆子原康通の各証言中には申請人金子、同宮川を含む組合本部に於ては常に正当監視行為の限界を逸脱した行為のない様に洋意しその防止に努めて来た旨及び争議に応援参加した外部団体所属者の中には時として独自の見解に基き組合の統制を逸脱した行動に出るものがないではなかつたがその都度組合に於て之を説得阻止した旨の各供述が存するが、当裁判所は前顕諸証拠に照してこれを措信せず他に右認定を左右するに足る証拠はない。尚十月十六日訴訟用務の為牧山工場を訪れた弁護士末松菊之助同村田利雄が工場正門に於て牧労監視班員によつて入場を阻止され、組合本部と折衝の末漸く入場し得たがその際用務の内容を述べるを余儀なくされた上甚だしく時間を空費させられ、その業務遂行に著しい妨害を蒙つたとの点について成立に争のない甲第十号証の五、七、乙第百二十九号証、並に証人坂井俊夫の証言によれば右末松菊之助が工場正門に於て名刺を示して入場せんとしたのに対し居合せた監視班員が本部の入門許可証を得て来る様申入れたところ之に応じ間もなく許可証を持つて引返して来たので入場せしめた事、右村田利雄についても同様の経過によつて入門した事は疏明されるが、爾余の点については疏明がない。

(二) 本判決事実摘示中の申請理由第三項の(1)の(ロ)の解雇事由該当事実(以下単に正門侵入事件と言う)として会社が主張するところについて、

当事者間に争のない事実、及び成立に争のない乙第六十七、第七十五乃至七十七、第二百五号証、第二百号証の一乃至四、証人山中昭夫の証言並に同証言によつて真正に成立したと認められる乙第六十八、第七十、第七十四号証、証人小田辰治の証言(第二回)によつて真正に成立したと認められる乙第七十一号証、弁論の全趣旨に照らして当裁判所が真正に成立したと認める乙第六十九、第七十二、第七十三、第七十八、第八十一号証、証人山村次郎の証言、同小暮友吉(第一回)、同力丸要助、同続勳、同藤野道也の各証言の一部、申請人金子勇に対する本人訊問の結果(第二回)、証人坂部武夫の証言(第二回)により真正に成立したと認められる乙第八十号証を綜合すれば、

昭和二十八年十月七日早曉、組合員の一部が争議から脱落して牧山工場に入場し、就業した事から組合に於ても組合員の団結を固める為、組合大会を開くこととし、十月八日、闘争委員長である申請人金子勇の名を以て所属組合員に対し十月九日午前十時、組合本部前に集合すべき旨を指令したが、これと相前後して一部組合幹部の間に右大会後示威行進を行つて工場内に入り就業中の脱落組合員を連出そうとの計画がひそかにすすめられ、十月九日早朝組合教宣部筆耕班員申請外山中昭夫が申請人宮川清城の許に呼ばれ、同日示威行進隊が正門より工場内に入る旨を含められた上特に当日の正門監視班の長に任ぜられて正門に赴いたところ、果して組合大会の終了直後の同日午前十一時半頃、組合員及び争議応援の外部団体所属者を交えた総数約千名が申請人金子、同宮川を先頭に三列縦隊をつくり、蛇行しつつ工場正門前道路上に於て示威行進を開始し、それと相前後して組合青年行動隊長統制部員矢原和彦が、右山中の許に至り、右計画が実行される旨を伝言し次で組合員上杉謙一からも右山中に対し、今日右計画が実施されるから、その際は、正門を塞ぐ監視班員に路を開かせるようにとの伝言があつた事、一方、会社としては、示威行進隊が工場内に立入ることあるを惧れ、その進発と同時に正門扉を閉し、閂をかけ且つ多数の保安係守衛等をその後に配して警戒していたところ、示威行進隊の先頭は一旦正門前を通過した後、右矢原の笛の合図と誘導により突如左旋回して反転し工場正門目がけて押寄せその時右矢原が前記山中に対し正門扉を開く様命じたが同人が咄嗟に之に応じ得なかつた為右矢原に於て正門扉を跳び越えて工場内に入り、守衛等の制止を排して内側より門扉の閂をはずすや、申請人金子、同宮川を先頭とする右示威行進隊は多衆の威力を示し且つ多数共同して喚声をあげ守衛等が閉めようと押している正門扉を押開いて工場構内に故なく侵入し、申請外力丸要助、同続勳、同藤野道也等を含む、外部団体所属の争議応援者等も之に交つて入り、申請外坂崎精二、同山村次郎等多数の工場守衛その他現場にかけつけた会社非組合員等の阻止を多数の実力で排して正門より相当の距離を隔てた工場構内保安本部の建物前附近迄真直に行進した後反転して工場外に退去したが、その間正門より右同所附近に至る工場内通路上に於ては啼声をあげて工場の奥に行進しようとする示威行進隊員と之を阻止しようとする守衛並に応援の為持場を離れてかけつけたその他の会社非組合員等との間に烈しい小競合いが行われ、その一帯の工場構内の秩序並に工場の正常なる業務の運営は一時甚しく乱された事、その際工場内に侵入した示威行進隊列の先頭に立つていた申請人金子自身も又手挙をふるつて、その前方に立ち塞り、その前進を阻止するに努めていた前記坂崎精二の胸部を殴打し、よつて同人に加療に五日を要する前胸部打撲傷を負わせたほか、右侵入に際し正門扉を内外から押し合つた為左側の門扉が押しはずされ、止金などその一部が破損した事が各疏明される。

証人力丸要助、同上杉謙一、同小田辰治、同大隈清吾(第二回)同小暮友吉(第一回)同坂井四郎、同続勳、同藤野道也の各証言、並に申請人金子勇に対する本人訊問の結果(第二回)中右認定に反する部分は之に符合する他の前顕各証に照らして措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

而して右認定事実並に申請人金子は闘争委員長として(同宮川は副闘争委員長として)争議指導の最高責任者であつたという争のない事実を綜合すれば、右正門侵入については右申請人を含む組合幹部の間に予め計画され、それに基いて申請人を含む幹部が当日現場で率先実行し、他の示威行進参加者等をして之と意思を同じくしてその実行に加担するに至らせた事についても又疏明があつたと言うを妨げない。

(三) 本判決事実摘示中の申請理由第三項(2)の解雇事由該当事実(以下単に宣伝車包囲事件と言う)として会社が主張するところについて、

当事者間に争のない事実及び成立に争のない乙第七十七、第九十六乃至第九十八号証、第二百一号証の一乃至四、証人永沢慶治の証言を綜合すれば、

昭和二十八年十月十二日、会社の傭入れにかかる西日本宣伝社所属の宣伝車に申請外永沢慶治ほか二名の会社非組合員と西日本宣伝社の社員二名が乗組み、宣伝放送をなしつつ会社牧山工場の各社宅を巡回した後、八幡市枝光長尾町にある長尾社宅に対する宣伝放送を終り、その間、争議団から離脱し、牧山工場内で就業中の者等の家族から工場内の各本人に渡して呉れと託された荷物三個を預つて、同日午後四時過頃同市枝光千代町三丁目附近の下り坂道の曲角を廻つたとき、竹竿を所持した者数名を交えた二、三十名位の組合青年行動隊員等によつて行手を塞がれたのでやむなく停車したところ同人等はその周囲を取巻き、その中に居た青年行動隊長矢原和彦が前記永沢慶治に対して前記の荷物の引渡方を要求し、次で現場に来会した本部員上野三男、同吉村稔も同様交々執拗にその引渡方を要求し、之を拒まれるやいづれも組合本部に行く事を承諾するか荷物を引渡す迄は同所から動かさぬ旨言明し、他方車を取巻く組合員等も口々に車を燃せ、引繰りかえせなどと喚声をあげ、要求に応じなければその身辺に危害を加えるかも知れぬ旨をほのめかして脅迫したが右永沢に要求に応ずる意なしと見るや右矢原は居合せた青年行動隊員に命じて車の前方に坐り込ませ、その余のものは車のまわりに蝟集してその行動の自由を奪い、やがて報により現場に来た申請人宮川も矢原等のとつた右措置を認容するの態度に出た上、自からも右永沢に荷物の引渡乃至は組合本部えの同行を強要し、之を拒まれるや応ずる迄このままにして置く旨の捨台詞を残し居合せた組合員や集つて来た社宅の主婦達に対し座り込みを続ける様命じて立去り、之に応じて車の前方に申請外庄野昭ほか十数名の、その後方に同じく数名の組合員らが蓆を敷いて座り込み、同日午後六時頃警官隊の出動により、その一部が検束される迄約二時間の長きに亘り多数の威力を示して右宣伝車乗組員達を脅迫して前記荷物の引渡を強要しつつその間之を監禁し、且つ威力を用いて会社並に西日本宣伝社の宣伝業務の遂行を妨害した事が疏明せられる。

証人山崎良人、同上野三男、同庄野昭(第二回)の各証言、申請人宮川清城に対する本人訊問の結果(第四回)、並に同結果により真正に成立したと認められる甲第十七号証の一乃至三、成立に争のない甲第二十九号証の一乃至四の各記載のうち右認定に反する部分は之に符合する前顕他の各証に照らして措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(四) 本判決事実摘示中の申請理由第三項(3)の(イ)の解雇事由該当事実(以下単に荷札剥取事件と言う)として会社が主張するところについては、

当事者間に争のない事実及び証人中島宗男の証言、成立に争のない乙第二百三号証の一乃至四、並に弁論の全趣旨に照らして当裁判所が真正に成立したと認める乙第百三、第百四号証によれば、昭和二十八年十月十六日午後四時頃、予てより争議の継続に反対して組合の統制から離脱し、十月七日以降牧山工場に入場して就業した一部の組合員を以て新に結成された旭硝子株式会社、牧山工場従業員組合の事務所がその二階に設置されていた戸畑市沖台通一丁目、申請外自見産業株式会社事務所前道路上に、申請人池田明を含む二、三十名の組合員が押しかけ右事務所内にいる牧山工場従業員態井某に面会を要求したが、その際、申請人池田は右申請外会社事務員の隙を窺ひ、前後二回に亘つて故なく、その階下事務所に侵入し、牧従が同組合員の家族等より託され、工場内で就業中の本人に届けるべく右階下事務所土間に置いて保管中の荷物二十数個から檀に荷札十枚を剥取つて持去つた事、並にその結果うち数個の荷物が差出人受取人共に不明となつて処理不能になつた事が疏明せられる。

右申請人は右階下事務所に立入つたのは招じ入れられたからであると主張するが之を肯認させるに足る適確な疏明はなく、却つて前顕各証によれば、それは荷札を剥取つてから後の事に属すると認められるし、他に前叙認定を左右するに足る証拠もない。

(五) 本判決事実摘示中の申請理由第三項(3)の(ロ)の解雇事由該当事実(以下単に社宅等デモ事件と言う)として会社が主張するところについて、

当事者間に争のない事実並に成立に争のない乙第七十七、第百十乃至第百十七、第二百四号証の一乃至四、証人坂部武夫の証言(第二回)により真正に成立したと認める乙第百六、第百七号証(いづれも写真を含む)弁論の全旨趣により当裁判所が真正に成立したと認める乙第百八、第百九号証、及び証人城昭倫、同木村又次郎の各証言によれば、昭和二十八年十月十七日午後十一時過頃、組合曹達支部支部長、申請外井上敏之の誘導により申請人池田明を含む約百名の組合員等がその二階に牧従の事務所の置かれている戸畑市沖台通一丁目申請外自見産業株式会社事務所前道路上に於て喚声をあげつつ示威行進を行つたが、その際その参加者等は勢力に乗じて右事務所表硝子戸の腰板、表欄間の硝子各一枚等を損壊したほか申請人池田明は更に電柱伝いに同事務所一階の屋根に登り二階に掲げてあつた牧従の木製看板一枚(巾一尺三寸、長さ六尺位)を取りはずし、何処えか之を投げ捨てるなど、多衆の威力を示し多数共同して器物毀棄並に脅迫行為をなした事、次いで同日午後十一時二十分頃、右の組合員等は戸畑市向町六丁目所在の牧山工場中野社宅街に至り喚声をあげて社宅構内の通路を示威行進したがその際にも前同様勢に乗じて工場長社宅の門灯を破壊し、門扉や傍の潜戸を押倒して損壊した上一部の者は故なく邸内に侵入して玄関硝子一枚を割つたりしたほか、庶務課長社宅ほか二社宅の板塀、表門扉、裏木戸などを損壊し、且つ之により同社宅居住者に著しい恐怖不安の念を抱かせ、続いて右社宅に隣る戸畑市金原町六丁目所在の社宅街に至り、前同様にして示威行進を行つたが、その際にも勢に乗じて徳岡係長社宅の門扉を押倒して之を損壊した上一部の者は故なく邸内に侵入し、玄関硝子戸の硝子一枚を割り郵便受などを破損せしめたほか、保険課長社宅など数社宅の門扉、裏木戸などを損壊し、尚電気課長社宅に投石して窓硝子一枚を割り、且つ之により同社宅居住者等に甚しい不安恐怖の念を抱かせるなど、多衆の威力を示し、多数共同して脅迫、器物毀棄行為を行い、右各社宅内の秩序と静ひつを乱したが、申請人池田明はこれらの示威行進にも加わつて他の参加者等と行動を共にし、自からも右工場長社宅に故なく侵入したものである事が疏明せられる。

証人宮原次郎吉の証言(第二回)及び成立に争のない甲第三十号証の一乃至四の記載中右認定に反する部分は之に符合する前顕各証に照らして措信出来ない。

そこで進んで以上の事実認定に基き申請人等の所為が旭硝子株式会社牧山工場社員就業規則(以下単に就業規則と言う)中の会社主張に係る各条項に該当するか否かについて按ずるのに、

凡そ同盟罷業に際して行われるピケッティグは当該争議団体所属員の脱落を防止し、且つ他の労働希望者と使用者との接近を阻止し以て罷業の使用者に与える経済的効果を維持する目的でなさるべき行為でありその手段方法に暴力が伴わぬ限り正当であると解すべきところ、

(一) 申請人金子勇について。

(イ) 同人に対する解雇事由の一として会社が主張する所謂違法ピケ事件の所為が就業規則第百七十七条第二号、第二十七号、第四十三号、第五十七号、第五十八号、第五十九号、第百六十九条に該当するか否かについて、牧山工場正門に於て、昭和二十八年九月十一日東京製鋼株式会社々員桑原勳の、同年十月七日八幡市警察署員稲永巡査部長、平本刑事の、同月十四日福岡県水産技師高木岩蔵の、同月二十日三菱化成工業株式会社々員村上定雄とその随行者二名の各入場を人垣を以て阻止し、牧労本部の入門許可証を得て来る様、要求してその入場を著しく遷延せしめ、甚だしきは入場を断念して立去るに至らしめた行為は、それらの人達が罷業の阻害とは何等関聯のない用務を帯びて工場を訪れた純然たる第三者であり、その事は入場交渉の全経過に於て組合本部乃至は現場で応待した申請人宮川清城その他の組合員等が容易に知り又は知り得べき状況にあつたと認められる点並に多勢の人垣という威嚇的効果を伴う実力を以てその入場を阻止した点に於ていづれも争議権を濫用し正当な監視行為の限界を逸脱した違法な争議行為と言わねばならない。

同年十月十三日組合が株式会社竹吉商店代表者細川肇の牧山工場入場を拒否した行為も右同人の入場目的が罷業の阻害を目的とするものでない事を了知し得べき状況にあつたと認められるから前同様違法と言わねばならぬ。

次に新聞配達員の入場を阻止した行為も、それらの人達が争議とは全く無関係な用務で入場せんとした事は明らかであるに拘らず実力で之を阻止した点に於て前同様違法な監視行為と言わねばならぬ。

次に同年十月十六日牧山工場診療所で診療を受ける為入場許可を求めた会社従業員の妻原田純子、同年十月十七日頃右同様の目的で入場を求めた会社従業員の妻須藤華子の各入場を拒否した行為も右両名の入場目的が罷業の阻害とは何等関係なく且つ当時同人等が罷業破りの行為に出る虞があると認められない状況にあつた事が明らかである点、並に入場を拒否するに当り組合側が多数の威力を以て脅迫を加え侮辱を与えている点に於て前同様違法と言わねばならぬ。

次に昭和二十八年九月半頃、同年十月半頃の二回に亘り、牧山工場出入の業者山根正雄の、同年十月十二日、同じく大田順一、入川勇の、同月十二日、十三日の二回に亘り、同じく恵藤聰の入場を拒否し、又は入場を阻止した行為は、その入場目的がいづれも罷業の阻害と直接関係なく、且つ同人等は当時罷業破りの挙に出る虞がないと認め得べき状況があつた事は明らかであり、一方会社としても争議中と雖も罷業労働に関係のない業務を停止すべきいわれはないに拘らず団体又は多数の力を背景に威力を示して之を拒否又は阻止した点に於て前同様違法と言わねばならぬ。

次に昭和二十八年十月九日会社非組合員友沢潤次郎の、同月十二日同じく富松規行、村上正夫、若杉豊太郎ほか二名の各入場を拒否した行為は、それらの人々が会社非組合員でありその業務上の必要で入場せんとするものである事は当時正門に居合せた監視班員並に申請人宮川清城等にとつて知り又は知り得べかりし状況にあつた事が明らかであるに拘らず実力を以て之を阻止した点に於て前同様違法な監視行為であつたと言わねばならぬ。尤も申請人等は保全協定により会社非組合員は腕章をつける事になつていたのに之をしていなかつたからその限りに於て入場を阻止したのは正当であるとなすが右主張に符合する申請人宮川清城に対する本人訊問(第一回)の結果は証人坂部武夫の証言(第一、二回)に照らして措信し難く、他に右主張を肯認するに足る証拠はないのみならず、会社非組合員と判明しても尚入場を阻止し得べきものとは言えないから右主張は理由がない。

次に昭和二十八年十月十日より十六日迄の間正門に於て入出場する会社従業員石神斐子、佐藤智恵子、伊藤登美子、枳穀玉代、高口百登美、中村瑤子、藪内靖子、上村桂子、権田トヨ子等の入出場を阻止した上之に対して所持品の検査を要求し、之を拒んだ中村瑤子の入場を許さず又権田トヨ子の携帯品を取り上げた行為は、右権田トヨ子を除き会社非組合員であるが、その検査要求がいづれも監視班員多数の環視の中で威力を示しその意思を抑圧してなされた点、右各女子職員が当時罷業の実体を阻害する虞のある物品を所持していたとは認め難い点に於て前同様違法な争議行為と言わねばならない。尤も権田トヨ子は成立に争のない乙第六十一号証によれば組合より差出された保全要員であると認められるから監視班員の要求に応ずべきものであるが、その携帯品が罷業阻害の用に供すべきものであつたと認め得べき確証はないから、その意に反して之を取上げたのは尚違法な行為と言うを妨げない。次に前示原田純子、並に之と同様の目的で牧山工場診療所に通つていた会社従業員の妻辻喜美に対し、診療所門に於て携帯所持品の検査を強要した行為も前同様の理由により正当なピケッティングの限界を逸脱した違法な行為と言うを妨げない。

次に十月九日請負業者栗組のトラックが空酸素瓶を積んで牧山工場港町門から出場しようとしたのを阻止した行為は、右空瓶の積出は製品の搬出となるのではなく、何等実質上罷業の阻害になるものでない事は当時と雖も既に明らかなところであり、会社としても罷業労働に関係のない業務までも停止すべき義務を負うものでなく、請負業者としては会社との請負契約に基く義務履行としてなすものであるから之に対して門前に多数の人垣を築き実力を以て阻止するのは正当なピケッティングの限界を逸脱した違法な行為と言わねばならない。尤も申請人等は、争議開始に当つて会社との間に保全協定が成立しその中に「会社はマシン六基を機動するに必要な中塊炭の受入、生石灰の払出以外の一切の入出荷はしない。下請業者は腐朽施設の取壊しにのみ従事させ、生産に従事させない。その他組合の行う罷業の効力を阻害する行為をしない。」旨が取決められていたと主張し、右は右協定事項以外の事柄であるから右港町門の監視班員等がその出場について会社と組合の間で協議が出来る迄現状を維持すべきものとして阻止したのであつてその限りに於て正当なピケッティングであるとなすが、当事者間に争のない事実並に成立に争のない甲第三号証の七の一乃至七、第四号証の三、第五号証の一、二、第十八号証、乙第二十、第二十五、第五十六、第二百十四号証及び証人坂部武夫の証言(第一、二回)、申請人宮川清城に対する本人訊問の結果(第一回)の一部同結果により真正に成立したと認められる甲第十九号証を綜合すれば、昭和二十八年八月二十七日、会社と組合の間に新に労働協約が締結されたが、その第百九条に基き予め締結しておくべき、争議協定は再三の交渉にも拘らず遂に同年九月十日の争議開始迄成立せず他方之と並行して交渉中であつた牧山工場内各職場の配置定員数に関する組合の主張も容易に会社の容れるところとならなかつた為遂に組合は右要求貫徹の為同盟罷業を行うことゝなり、右協約第百八条に従い、同年九月九日午前九時半頃会社に対し明十日正午より同盟罷業を実施する旨通告し、且つ保全要員については前示協約第百九条による争議協定が存しないから組合としては別紙の人員を保全要員として各職場に差出す旨あわせて通告して来たので直に会社より組合に団体交渉を申入れたところ、その席上組合は会社に対して通告書と題する同日附の書面を手交したがそれには、争議期間中無用の紛争をさける為左の各号を組合が履行するから会社も履行する事を通告するとして、(一)会社は原燃材料一切の購入受入れを行つてはならない。但しマシン六機を機動するに必要な中塊炭の受入は組合も認める。(二)会社は如何なる事情があろうとも一切の出荷を行つてはならない。但し爆発の惧れのある生石灰の払出しは従来通り行う事を組合も認める。(三)会社はマシンより引上げた硝子を総てカレットとしなければならない。(四)会社は社員たる組合員以外の労働者をもつて社員の代りに就業させてはならない。(五)組合はその必要と認める保全作業え就業する要員を会社え差出す。会社は組合の了解なしに組合員を保全要員としてはならない。(六)会社は(一)乃至(四)以外であつても組合の行う罷業の効力を阻害する行為を行つてはならない。尚前各号が履行されない場合組合はその差出した保全要員についてその態度を留保するとあつたので会社はその撤回を求めて意見が対立したが、結論が出ないまゝ遂に争議開始寸前の九月十日午前二時過頃会社は組合の呈示した保全要員名簿に基いて差出される人員を保全業務要員として一応受容れることになつた事その後、双方の申出により保全要員については若干の増員又は変更があつたが一方会社申出の原料入荷の件は、前示通告を理由に拒否された事が疎明せられ以上の事実と前示通告の内容を以て牧山工場の如き大規模且つ複雑な機構を有する化学工場が維持保全されるとは通常言肯し得ないところである点に照らし、会社は前示通告に拘束される意思はなく唯保全要員を欠けば工場の機能が麻痺し後日の回復著しく困難な状況に陥るを惧れるのあまり支障のない限り組合の態度に同調していたものと認むべくこの事は組合が前示通告中保全要員に関する留保条項を、撤回していない点に照らし組合も又了知していたと認めるのが相当である。申請人宮川清城に対する本人訊問(第一回)の結果中、右認定に反する部分は、遽に措信し難く、成立に争のない甲第二十一号証(保全要員服務要領)の存在は証人坂部武夫の証言並に同証言により真正に成立したと認められる乙第二百二十四号証に照らして未だ右認定を覆すに足らず他に右認定を左右するに足る証拠はない。元来労働協約は文書に作成し且つ労働組合と使用者との署名を要する要式行為であるから右のような形式を踏んだと認むべき疏明のない本件において、申請人ら主張の如き労働協約が存したとは認められないのみならず申請人等主張の如き争議当事者を拘束する合意も存しなかつたと言うべきであり、その存在を前提とする前示主張は到底採用に値しない。

次に昭和二十八年十月八日堂山門に於て上田建設工業株式会社等の請負業者並にその従業員等百数十名の入場を阻止した行為は、その入場目的が争議と関係のない会社との間の請負契約に基く義務履行の為であつてその事は入場交渉の経過に於て知り又は知り得べき状況にあつた事が認められ、且つ右請負業者らが罷業労働に従事するだけの高度の技術と熟練を持ち合わせず、罷業を害する虞のない事も明らかであるから之に対して門前に人垣を築き実力でその入場を阻止し就業不能に陥れたのは正当なピケッティングの限界を逸脱した違法な争議行為と言わねばならない。

次に十月八日、九日の両日に亘り牧山工場鉄道引込線上に座り込み貨車の引出、又は押込の為にする日本国有鉄道公社の列車の運行を阻止した行為は、一般に争議中であつても会社はその操業を停止すべき法上の義務を負うものでもなく否進んで罷業労働に関係のない業務はこれを遂行する権利を有するものでありしかも本件貨車の引出又は押込じたいは争議とは直接関係のない日本国有鉄道公社が会社との間に締結された既存の運送契約に基いてなすものであるから之を実力で阻止するのは正当なピケッティングとしての限界を逸脱した違法な行為と言わねばならない。

尤も申請人は、会社との間に成立した保全協定により、会社は組合に対し争議中はマシン六機を機動するに必要な中塊炭の入荷と生石灰の払出出荷以外の出入荷はしない義務を負うているからそれ以外のものゝ出入荷を阻止する右行為は正当なピケッティングであると主張するが、その主張の如き保全協定なるものゝ成立していない事は前に説示した通りであるから右協定の存在を前提とする右主張は採用に値しない。

次に十月二十三日赤星智雄を拉致した行為は、同人が組合の統制を離脱して工場内に入り就業した元組合員であるからその復帰を促す為の或程度の強硬な措置はピケッティングとして許されるべきであるが、実力を以てその身体の自由を奪い組合本部迄連行したのは暴力を伴つている点に於て最早法の許容する範囲外にあると言わねばならない。

次に牧山工場岸壁前面海上にロープ等を以て六乃至十隻の船を連結配置する等の方法を以て岸壁に至る海面のほとんどを塞ぎ、小型船舶の出入に支障を与え、大型船舶の出入を不可能ならしめ、よつて船舶間の衝突という事態の発生の危険を生ぜしめた行為は公の水路を塞いで船舶の自由な航行を妨げるのみならず、その航行に重大な危険を及ぼす行為として著しく公共の安全を害するものであるからこれ又正当なピケッティングの限界を逸脱した違法な行為と言わねばならない。

最後に昭和二十八年十月十六日牧山工場正門に於て入場せんとした弁護士末松菊之助、同村田利雄に対し組合本部に赴いて入門許可証の交付手続を受けさせた後入場させた行為は、実力を以て之を強制したと迄は認められないから未だ以て違法なピケッティングと言うを得ない。

そこで以上に於て違法と認めた各所為が会社主張の前示就業規則の各条項に該当するか否かについて考察するに、

業務上の用務を帯びて工場を出入場せんとした人々を威力を以て阻止し、又はその入出場を拒否しよつてその業務の遂行を妨げた所為並にそれによつて入場者を迎えて応待すべき業務担当の会社係員の業務を妨げた所為、受診者の診療所入場を拒否することによつて、これを迎えて診療すべき業務担当の係員の業務を妨げた所為はいづれも威力を用い人の業務を妨害したという刑罰法規に、又診療所で診療を受ける為入場を求めた者に対し威力を以て之を拒否して受診を不能ならしめ且つ侮辱を加えた所為は暴行を用ひ人をして行うべき権利を妨害、公然人を侮辱したという各刑罰法規に、又威力を示して入出場者の所持品の検査を要求した所為は暴力を用ひ人をして義務なきことを行わしめたという刑罰法規に、又鉄道引込線上に座込んで貨車の引出、押込を阻止した所為は、国鉄公社並に会社に対して威力を用い業務を妨害したという刑罰法規に、赤星智雄を牧労本部迄拉致連行した行為は不法に人を逮捕し、並に威力を以て業務を妨害したという刑罰法規に、又海上監視船列の設置並に具体的な船舶の出入に際して海上監視班員らのとつた行動は水路を壅塞して往来の妨害を生ぜしめ又艦船の往来の危険を生ぜしめたという刑罰法規に夫々触れるものであることが疏明されるから就業規則第百七十七条第五十八号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、又右のうち会社並にその業務担当係員の業務を妨げた所為が就業規則第二十七号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、尚右のうち工場の一部をなす正門、堂山門、診療所門、港町門、鉄道引込線上に於て威力を示した点が就業規則第百七十七条第四十三号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、貨車の引出、押込を阻止した為会社に本来無用の貨車留置料貨物保管料等を支出させた事が前示第百七十七条第五十七号に該当する事はその条項の文言に照らして明らかであり、又いわれもないのに純然たる外来者の入場を阻止し、若くは不法なピケッティングにより会社の取引先の業者に財産的損失を蒙らせた所為が前示第百七十七条第五十九号に該当する事も同条項の文言に照らして明らかである。(ところで会社は右各所為のうち就業規則第百七十七条第二号にも該当するものありとして之を適用しているが、同条項の文言の解釈よりして右条項の適用があるのは本人が就労中に該当違反行為があつた場合に限ると解するのが相当であるから、同盟罷業に参加して職場を放棄している間になした前示各所為に対しては適用の余地のないものであると言わねばならない。)而して申請人金子は牧労の争議指導最高責任者たる闘争委員長として(申請人宮川は之に次ぐ争議指導最高責任者兼監視班の最高責任者たる副闘争委員長兼統制部長として)同盟罷業中牧労のなした監視行為につき、自からその実施方針の立案決定に参画し、右決定方針に基いてその具体的実施を指令或は指示し、又は監視行為に伴つて生じた具体的紛争の現場に臨んで自からその処置につき指導し、これら指令、指示、指導を自己を含む組合の意思として麾下組合員に示し、之に準拠して行動すべき事を命じた結果として右各違法ピケッティングの発生を見るに至つたのであるから、右各違法ピケッティング中自から実行しなかつた部分も当該違反行為者と意思を同じくし、之を介して実行した共謀共同行為と言うべくそれが就業規則第百六十九条に該当し、当該違反行為者と同一の責任を問わるべき事は同条項の文言によつて明らかである。

従つて会社が右申請人の右所為が就業規則第百七十七条第二十七号、第四十三号、第五十七号、第五十八号、第五十九号、第百六十九条に該当するとなしたのはまことに正当である。

(ロ) 申請人金子勇に対する解雇事由の二として会社の主張する所謂正門侵入事件に於るその所為が、就業規則第百七十七条、第十二号、第三十二号、第三十三号、第三十七号、第四十三号、第四十七号、第五十八号、第百六十九条に該当するか否かについて右申請人を含む示威行進隊が、会社守衛の制止を排し閉められていた正門扉を押開き、工場管理者の意に反して大挙入場した所為は故なく他人の建造物に侵入したという刑罰法規に、その際多衆の威力を示し多数共同して門扉を押開いた事により之を損壊し更に喚声をあげて工場内部え侵入せんとし、之を阻止せんとする会社守衛、その他の会社非組合員らとの間に烈しい小競合を演じた上実力でその阻止を排して奥え進んだ所為は多衆の威力を示し多数共同して暴行脅迫したという刑罰法規に、尚申請人金子が会社守衛坂崎精二に負傷せしめた所為は人の身体を傷害したという刑罰法規に夫々触れることが疏明されるから就業規則第百七十七条第五十八号に該当する事は同条項の文言に照らして明らかであるがそれと共に右の各所為のうちの多衆の威力を示し多数共同して暴行脅迫し、且つ他人を傷害したという所為をなし、会社守衛の制止を実力で排した点は、工場構内に於て喧嘩、暴行、脅迫、その他之に類する行為を行つたものとして、又会社守衛の制止は工場警備に任ずるものとしての職務行為であるから、守衛のなす職務行為を不法に拒んだものとして、就業規則第百七十七条第三十三号、第四十三号に該当する事も各条項の文言に照らして明らかであり、尚右各所為のうちの工場侵入行為については、証人坂部武夫の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる乙第六十五号証、成立に争のない乙第六十六号証、乙第百八十二号証により会社は、争議期間中、就業規則第四章所定の社員の入場に関する規定の特則として、同規則第九条に基き「争議行為参加者に対する特例」を制定、昭和二十八年九月十日之を告示したがその第四項(イ)号に「特に会社が認めた外は工場構内の立入を禁止する」とあり、組合、並にその組合員共に之が存在を知つていた事が認められるから、右侵入の所為が、就業規則以外の会社の規則、規程に従わず、しかも許可なく所定の通用門以外の場所から工場に出入したものとして、就業規則第百七十七条第十二号、第三十二号に該当する事も右各条項の文言に照らして明らかであり、更に右侵入により示威行進隊中に交つていた応援の外部団体所属者を工場内に立入らせた所為が前示第百七十七条第三十七号に、又右侵入により正門から保安本部建物に至る附近一帯の工場構内を喧噪、混乱状態に陥れ、工場の正常な業務の運営を乱した所為が右第百七十七条第四十七号に該当する事は右各条項の文言によつて明らかである。

而して以上の各所為は申請人金子、(同宮川)の組合幹部に於て事前に計画し、自から之を実行することにより、その余の示威行進参加者等をして現場で之と意思を共通してその実行に加担するに至らせた結果なされたものであるから、その自から実行しなかつた部分も当該実行者と意思を同じくし之を介して実行した共謀共同行為と言うべきであつて、それが就業規則第百六十九条に該当し、当該違反行為を自から実行したのと同一の責任を問わるべき事は同条項の文言によつて明らかである。

従つて会社が右申請人の右所為が就業規則第百七十七条第十二号、第三十二号、第三十三号、第三十七号、第四十三号、第四十七号、第四十八号、第百六十九条に該当するとなしたのは正当である。

(二) 申請人宮川清城について。

同人に対する解雇事由の一、二は前示申請人金子に対する解雇事由(イ)(ロ)と同じであるから右同所において判断したところをここに引用する。

同人に対する解雇事由の三として会社の主張する所謂宣伝車包囲事件に於るその所為が就業規則第百七十七条第二十七号、第五十八号、第百六十九条に該当するか否かについて、申請人宮川の現場到着の前後を問わず、宣伝車の周囲に蝟集し、一部の者はその前後に座込んで宣伝車操縦の自由を奪い右車に乗組んでいる人達をして車諸共現場を脱出する能わざらしめ且つその宣伝業務の続行を不能にした所為は不法に人を監禁し、威力を用い人の業務を妨害したという刑罰法規に、かゝる状況下に於て申請人宮川が申請外永沢慶治に対し拒めばその自由の拘束されることあるべきを仄かして荷物の引渡を要求した所為は生命、身体等に害を加へる可きことを以て脅迫したという刑罰法規に夫々触れることが疏明されるからそれらの所為が就業規則第百七十七条第五十八号に該当する事は右条項の文言によつて明らかであり、又会社の宣伝業務遂行の為乗組んでいる永沢慶治外二名の会社非組合員の業務を妨げた所為が右規則第百七十七条第二十七号に該当する事は右条項の文言並に就業規則第百六十六条の文言に照らして明らかである。

而して申請人宮川清城の現場到着以後の各所為は、争議指導の最高責任者としての右申請人自からが組合員に実行を命じたところであるから、その自から実行しなかつた部分も当該実行者と意を同じくし之を介して実行した共謀共同行為と言うべきであるからそれが就業規則第百六十九条に該当し、当該違反行為者と同一の責任を問わるべき事は前に述べた通りである。

尤も同申請人は会社の宣伝車が罷業破りをして工場で就業中の者に渡すべき荷物を預り携行していた事は組合の団結権、争議権の侵害行為であり、之に対する防衛行為として前示各所為がなされたのであるからそれは正当な争議行為であると言うが、仮に荷物の受取人がその主張の如く罷業破りをした人達であり、之に渡す為荷物を預つて携行する事が組合の団結権、争議権の侵害行為であつたとしても、公の道路上で暴力を使用してなした前示の如き行為は、労働組合法第一条第二項但書の法意に照らして正当な争議行為と認めるに由なく、且つ罷業破りの人達と雖も、その生命身体を維持するに必要な物資の補給を受ける権利を剥奪さるべきものではないから右主張は採用の限りでない。

尚同申請人は右宣伝車による宣伝活動は会社の業務に当らないと言うが苟くも、その目的業務の範囲内に於てその遂行上必要ありとしてなすところは違法行為でない限り業務行為と言うべく、対組合宣伝行為も現時の社会通念に照らしその目的業務遂行上必要な業務行為の範囲に含まれると解すべきものであるから右主張は理由がない。

(三) 申請人池田明について。

(イ) 同人に対する解雇事由の一として会社の主張する所謂荷札剥取事件に於けるその所為が就業規則第百七十七条第五十八号に該当するか否かについて、

正当な理由もないのに自見産業株式会社事務員の隙を窺つてその事務所内に立入つた所為は故なく人の住居に侵入したという刑罰法規に、檀に同所に置いてあつた荷物から荷札を剥取つた所為は器物を毀棄したという刑罰法規に夫々触れることが疏明されるからそれらが就業規則第百七十七条第五十八号に該当する事は同条項の文言に照らして明らかである。

尤も申請人は、右荷物は罷業破りをして工場内に入場就業した人達に送られるものであり、これ等の人々は争議開始後会社の組合に対する露骨な支配介入行為によつて切崩され、組合の統制を離脱して会社と協力し罷業破りを行つたものであつて、右荷物を見た刹那会社の不当労働行為に対する憤慨、之に呼応した脱落者に対する嫌悪の念と侵害されんとする組合の団結権、争議権防衞の意思よりこの挙に出たものであつてそれは正当な争議行為であるが、仮にしからずとするも社会的に非難に値しないか又は値するとしても極めて軽微なものであると主張するが、仮に会社がその主張の如き不当労働行為をなしたとしても右荷物が前示自見産業株式会社事務所内に置いてあるだけでは未だ組合の団結権争議権に対する侵害が現在するとは言い得ず、又申請人池田明に当時権利防衞の意思の存した事を肯認させるに足る証拠乃至は事実がないし、又当時の諸般の事情に照らして社会的に非難に値せず何人もかゝる所為に出ない事を期待し得なかつたとは認められないからその主張は採用出来ない。

(ロ) 申請人池田明に対する解雇事由の二として会社の主張する所謂社宅等デモ事件に於るその所為が就業規則第百七十七条第四十六号、第四十九号、第五十八号に該当するか否かについて、

申請外自見産業株式会社事務所前道路上、及び会社中野社宅に於る示威行進に際し右申請人を含む示威行進隊員等の所為はいづれも多衆の威力を示し数人共同して暴行脅迫したという刑罰法規に、又申請人池田明がその際故なく工場長社宅内に立入つた所為は故なく人の住居に侵入したという刑罰法規に夫々触れることが疏明されるから右は就業規則第百七十七条第五十八号に該当する事は右条項の文言に照らして明らかであり、更に中野社宅に於て門扉門灯板塀木戸口などを損壊した点が就業規則第百七十七条第四十九号に、社宅に於る暴力行為を伴つた示威行進により器物を損壊し、喚声をあげ投石して、その居住者を脅迫し恐怖不安の念を抱かせた点が右規則第百七十七条第四十六号に各該当する事も右各条項の文言に照らして明らかである。

而して右各所為は申請人池田明を含む示威行進参加者多数が意思を同じくしてなしたものであつて右申請人もその実行に当つているからそれは又右申請人の所為でもあると言うべく従つて会社が右申請人が前示各所為に出たものとしてそれが就業規則第百七十七条第四十六号、第四十九号、第五十八号に該当するものとなしたのは正当である。

そこで更に会社が申請人等に前叙の如き就業規則の各条項に違反する行為があつた事を理由に各申請人を懲戒解雇に処したのが正当であるか否かについて考察するのに、

成立に争のない乙第一八二号証によつて認められる就業規則中の第百七十八条によれば、申請人等のうち第百七十七条第十二、第三十二、第三十七、第四十六の各号該当の行為のあつたものは原則として譴責、減給、出勤停止のいづれか一の懲戒に処せられるべく但し情状の特に重い時は懲戒解雇に処せられる事あるべき事が明らかであり、又第百七十七条第二十七、第三十三、第四十三、第四十七、第四十九、第五十七乃至第五十九の各号該当の行為のあつたものは原則として懲戒解雇に処せらるべく但し情状により軽減される事あるべき事が明らかであり、又右百七十七条の各号に該当する数個の異る行為がありそれに対する懲戒の種類が異る場合その最も重い懲戒を行うべき事が原則である事も就業規則第百六十七条の規定の趣旨を類推して之を認める事が出来るから、申請人金子勇は、その所謂違法ピケ事件、正門侵入事件に於る各所為中に就業規則第百七十七条第二十七、第三十三、第四十三、第四十七、第五十七乃至第五十九の各号該当の所為がある以上、原則として懲戒解雇に処せられるべきものであり、申請人宮川清城も、その所謂正門侵入事件、違法ピケ事件、宣伝車包囲事件に於る各所為中に就業規則第百七十七条第二十七、第三十三、第四十三、第四十七、第五十七乃至第五十九の各号該当の所為がある以上原則として懲戒解雇に処せられるべきものであり、申請人池田明も亦その所謂荷札剥取事件、社宅等デモ事件に於る各所為中に規則第百七十七条第四十九、第五十八の各号該当の所為がある以上、原則として懲戒解雇に処せられるべきものと言わねばならない。

しかしながらかゝる場合に於ても、具体的に懲戒処分を決定するに当つては違反行為に関する各種の情状を考慮すべく、その情状によつて懲戒が減軽される事あるべきは就業規則第百六十五条、第百七十八条第二号但書に於て定めるところであるから各申請人等について顕著な減軽事由があるか否かについて考察するのに申請人等はその争議中の行為のうちに就業規則違反のものがあつたとしてもそれは、会社の労働協約違反行為、保全協定違反行為乃至は組合に対する支配介入行為に対抗し、組合の団結権、争議権を擁護する為のものであつたから此の点に鑑み、懲戒を減軽すべきものであると主張するがその主張の如き保全協定の成立していなかつた事は前示の通りであり、その余の点についても会社にその主張の如き不当な行為があつたと仮定しても、申請人等の前叙の各就業規則違反行為は、それ自体に照らし之に対抗し、組合の権利を守るべくなした行為としては、事態に適切な争議行為と認め難いのみならず、その手段方法に於ても著しく妥当を欠き刑罰法規に触れることの疏明される行為も多々ある事は前叙の通りであるから、未だその故を以て顕著な減軽事由とはなし難く、他に顕著な減軽事由と認むべきものも存しない。加え右の懲戒を減軽しなければ、著しく正義に反すると認められる事由も疏明されない。

従つて、申請人等に対し前叙の如き懲戒に基き就業規則第百七十八条を適用して夫々懲戒解雇に処した会社の処分はいづれも理由を備えた正当なものであつて、之を目して差別待遇なりと解すべき余地もないと言うべきである。

尚申請人等は、会社は申請人等の日頃の活溌な組合活動を厭ふ余り、その工場内への立入を封じ以て組合の弱体化を意図しているもので本件解雇は正に名を就業規則違反に藉りて、殊更申請人等だけを解雇した不当労働行為であるから無効であると主張する。

しかし乍ら、右に認定した通り、申請人等の各行為は、いづれも会社の経営秩序を著しく紊す不当な行為であり、これに対する懲戒解雇も重きに失するとはいえない。従つて会社が申請人等の日頃の正当な組合活動の故に解雇したとすることはできずその他申請人等の全立証を以てするも、本件解雇が申請人等の日頃の正当な組合活動の故になされたとするに足るものはない。従つて申請人等の右主張も亦採用できない。

以上を要すれば申請人等の本件申請は、その第一の前提をなす、懲戒解雇処分の違法並に不当の点に於て既にその主張は理由がないことに帰するから、爾余の点について判断する迄もなく失当として却下を免れない。

よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 松山安馬 宮脇辰雄 平佐力)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例